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どうせ仕事するなら、楽しんでやったほうがよくない?

楽しくなければ仕事じゃない

 書籍紹介をとおして数多の出版社名を目にしてきたが、各社の代表がどんな人物か? ということまで考えたことはなかった。しかし、とてもスルーすることのできない女性経営者がいる。

 「全国5000の書店と直取引! 自ら編集した書籍も累計1000万部超! 出版界で大注目の経営者」という唯一無二の存在感を放つ、ディスカヴァー・トゥエンティワンの前取締役社長・干場(ほしば)弓子さんだ。

初の著書は「働き方の教科書」

 本書『楽しくなければ仕事じゃない』(東洋経済新報社)は、干場さんの初の著書となる(本書刊行時は取締役社長、現在は退任)。サブタイトル「『今やっていること』がどんどん『好きで得意』になる働き方の教科書」のとおり、特に若者に向けて「人生の楽しさを最大化する働き方・生き方・動き方」を説いている。

 干場さんは、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンCo-founder。前取締役社長。一般社団法人日本書籍出版協会理事。International Publishers Association(IPA)理事。日本オーディオブック協議会理事。ビジネス書大賞主宰。

 お茶の水女子大学卒業後、世界文化社『家庭画報』編集部等を経て、1985年にディスカヴァー・トゥエンティワン設立に参画。以来、取締役社長として経営全般に携わり、書店との直取引で業界随一の出版社に育て上げた。2011年には『超訳 ニーチェの言葉』が同社初の100万部を突破。自ら編集者としても勝間和代さんなど多くのビジネス系著者を発掘し、さまざまなシリーズを立ち上げてきた。

 これでも本書に掲載されているプロフィールの全てではないが、干場さんが相当の敏腕経営者、編集者だとわかる。傍から見るとこの上なく輝かしいキャリアだが、ここに至るまでにどんな経験をしてきたのか、どんな信念を持ってやってきたのか――。干場さんへの興味が沸々と湧き上がってきた。

ディスカヴァーの存在意義

 最初は「サークルみたいなノリ」から始まり、いつまでも「新興のアウトサイダーのつもりでいた」というが、ディスカヴァー・トゥエンティワンは今年(2020年)創業35周年を迎えた。スタッフも100名近くなり、刊行書籍も2000冊を超えた。

 同社の特徴として、出版社では珍しい営業の強さを挙げている。取次を経由しない直取引のため、自分たちで毎月営業しないと書店に本が並ばない。現在、全国一万数千軒の書店のうち上位5000軒と取引しているが、これは基本的に一軒一軒取引をお願いして回った結果だという。

 「小さな習慣から大きな社会変革まで、行動を起こす本をわたしは目指してきた。何かひとつでもいい、新しい視点、隠れていてこれまで気づかなかった視点を提供する本を出すことが、ディスカヴァーのこの世の中における存在意義だと思ってきた」

 現在のディスカヴァーができあがるまでには「何のツテも実績もない新興の出版社」としてスタートを切り、前例のないところに果敢に挑んでいく干場さんの踏ん張りがあったことを知った。干場さんはディスカヴァーの経営を「0→1と1→10くらいまでやってきたかな」と書いているが、この「0→1」は「1→10」と同等の困難があったことを感じさせる。

「楽しむのも能力」

 DIS+COVER、つまりカバー(覆い)をディする(外す)。ディスカヴァー・トゥエンティワンは「視点を変える 明日を変える」を理念に掲げている。

 本書には2つ、干場さんが果たそうとしている任務がある。1つはディスカヴァーから出す本と同様に「視点を変える (読む人の)明日を変える」こと。もう1つは「仕事を楽しむことの楽しさを伝える」こと。

 当初、本書のタイトル『楽しくなければ仕事じゃない』に対し「世の中には、楽しみたくたって楽しめない仕事を余儀なくされている人がいっぱいいる。ハードルが高すぎますよ」との反対意見もあったという。しかし、干場さんはこう考える。

 「そうかもしれない。でも、人生のほとんどを占める仕事の時間、どうせやるなら、楽しんでやったほうがよくない?」

 「楽しいかどうかを決定するのは、起こっていることではなく、それをどうとらえるか、であり、その人の選択である。......すなわち、楽しむのも能力である」

 その能力は、練習と「視点」の転換によって身につけることができるという。

「働く人を惑わす10の言葉」

 「キャリアプラン」「効率」「好きを仕事にする」「夢をかなえる」「ロールモデル」「ワークライフバランス」「嫌われてはいけない」「リーダーシップ」「自己責任」「自己成長」――。

 仕事をする上で不可欠と思われているこれらについて、本書は意外にも「働く人を惑わす10の言葉」として1つずつ反論していく。「一般には、やるべき正しいこととされている」ことやキーワードを挙げ、そこに別の「視点」を持ち込んでみる、という方法をとっている。

 ここでは一つ、「キャリアアップ」に対する別の「視点」を紹介しよう。「まじめな」若い人がやりがちなのが「キャリアアップのためのお勉強」。しかし、勉強の延長上に、キャリアアップがあるとは限らないという。

 「小さなことから大きなことまで、人生の転機は、『人』が連れてくる。......それはたいてい、連続的な直線の延長上とはちょっとずれた(時には、まるで違う)方向に、わたしたちを向かわせる。方向はずれているけれど、上昇の方向であることは違いない、そんな感じ」

 では、勉強は何のために必要なのか?

 「チャンスの神様との出会いのためだ。出会ったときに、これがその人と気づくため。そして、相手にこの人ならチャンスをあげてもいいかも、と思ってもらえるため」

 干場さんは「編集者になることや、ましてや出版社の社長になることは、夢ではなかった。目標でもなかった」と自身のキャリアのスタート地点を振り返る。一直線に器用に進めなくてもいいのか、と思えた。

 一つひとつの言葉に熱がこもっている。干場さんの想いの強さを見習いたい。本書は軽快なテンポと率直な文章で、読者をグイグイ引っ張っていく。特に就活中の学生、新社会人、出版界に興味のある方に読んでほしい。明るく力強く、仕事や人生の指針を示してくれる一冊だ。

  • 書名 楽しくなければ仕事じゃない
  • サブタイトル 「今やっていること」がどんどん「好きで得意」になる働き方の教科書
  • 監修・編集・著者名干場 弓子 著
  • 出版社名株式会社東洋経済新報社
  • 出版年月日2019年11月 7日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・280ページ
  • ISBN9784492046579
 

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