BL(ボーイズラブ)からキャリアをスタートさせた凪良(なぎら)ゆうさん。最近は一般文芸作品を中心に発表し、書店員や出版業界、メディアから注目されている。本書『わたしの美しい庭』(ポプラ社)は昨年(2019年)12月の発売以来、3刷1万6000部と好調のようだ。
先月末、渋谷・大盛堂書店でイベント「渋谷の書店員3人による2019年下半期文芸書ベスト3と、小説家・凪良ゆうさんについて語る。」が開催された。『流浪の月』刊行元の東京創元社と、本書『わたしの美しい庭』刊行元のポプラ社の担当編集・営業が凪良さんの魅力を語ったという。
また、2月1日付の日経新聞には「『わたしの美しい庭』凪良ゆう著 競合他社の協力得た販促 奏功」と出ていた。記事によると、凪良さんはBLでキャリアを持つ人気作家だが、一般文芸では無名に等しい。そこで「業界を挙げて注目している書き手だと読者に伝えたい」と、出版社の垣根を越えて販促物に載せるコメントを求めるなどの連携の動きがあったという。
本書に挟み込まれたリーフレットを見ると「いま、凪良ゆうが熱い! 中毒者続出中の凪良作品を、ここでは一挙にご紹介」とあり、『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)、『すみれ荘ファミリア』(富士見L文庫)、『流浪の月』(東京創元社)と『わたしの美しい庭』(ポプラ社)が並んで紹介されている。今後はこうしたPRの仕方が定着するかもしれない。
本書は「わたしの美しい庭 Ⅰ」「あの稲妻」「ロンダリング」「兄の恋人」「わたしの美しい庭 Ⅱ」からなる連作短編集。
小学生の百音(もね)と30代半ばの統理(とうり)は、マンションでふたり暮らし。朝になると隣に住む統理の親友・路有(ろう)がやって来て朝食を作り、3人で食べる。百音と統理に血のつながりはない。その生活を「変わっている」という人もいるが、日々楽しく過ごしている。
3人が暮らすマンションの屋上には庭園があり、緑あふれる小道の奥には両脇を狛犬に護られた朱塗りの祠がある。地元の人たちからは「屋上神社」「縁切りさん」と気安く呼ばれている。この屋上神社は断ち物の神さまが祀られている。病気、酒・煙草・賭け事などの悪癖、気鬱となる悪い縁、すべてを断ち切る強い神さまであり、夫婦や恋人はお参りしてはいけないと言われている。
ここへやって来る「いろんなもの」が心に絡んでしまった人たちは「形代(かたしろ)」という両手を広げた人の形をした白い紙に縁を切ってほしいものを書き、祠の横に設置されているお祓い箱にそれをすべり落とす。手を打ち鳴らし、神さまに切ってくださいと祈願する。
登場人物たちが縁を切りたいもの、縁を結びたいものはなにか――。自分にとって切るべき縁、絶対に切ってはいけない縁はなんだろう......と、読者も自身を取り巻く「縁」について考えることになる。
「いろんなもの」が心に絡んでしまった登場人物を少しずつ紹介しよう。
百音は5歳で両親を亡くし、統理に引き取られた。近所のおばさんたちから「なさぬ仲は大変よ」と噂され不安を感じている。(「わたしの美しい庭 Ⅰ」)
39歳の桃子は、職場ではお局ポジションになり、家では母親から結婚を急かされている。高校時代に事故死した彼氏を秘かに想い続けている。(「あの稲妻」)
路有は、ゲイであることで友人からも両親からも離れることになった。自分のセクシャリティにより様々なものに傷ついている。(「ロンダリング」)
基(もとい)は、事故死した兄の分まで必死に生きようとしたが、うつ病を発症。人生をリタイアしたかのようで罪悪感と焦燥感を抱えている。(「兄の恋人」)
「世の中には、いろんな人がいるんだよ。自分の陣地が一番広くて、たくさん人もいて、世界の中心だと思っていたり、そこからはみ出す人たちのことを変な人だと決めつける人たち。わかりやすくひどいことをしてくるなら戦うこともできるけれど、中には笑顔で見下したり、心配顔でおもしろがる人もいる――」
「生きていく中でなにかが根っこから解決することなんて滅多にない。しんどい。つらい。......だからとりあえず明日がんばるための小さな愉しみを拾い集めていくことが優先される。......考えすぎず、突き詰めすぎず、沈まない程度の浮き輪につかまって、どこともしれない場所へと流されていく。子供のころイメージしていた、なんでも知っていて間違えない思慮深い大人にはほど遠い」
本書のリーフレットに「どの本から読んでも、あなたの『言ってほしかった言葉』が必ずあります」とある。まさに、自分の気持ちを的確に言葉にしてくれた、こんな言葉を言ってほしかった......と思いながら本書を読んだ。絡んでしまった「いろんなもの」を解いてくれる、そんな効き目のある言葉を随所に見つけることができる。
本書は優しく柔らかく、色彩にたとえるならパステルカラーの印象を受けた。凪良さんの各種インタビュー記事によると、これは版元が児童書も出しているポプラ社だったことが関係しているという。版元のカラーによって作家が作風を変えることもあるとは意外だった。他の作品を読めば、凪良さんのまた新たな一面を発見することになりそうだ。
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