読むべき本、見逃していない?

「ひきこもり1000万人社会」になるかもしれない

  • 書名 中高年ひきこもり
  • 監修・編集・著者名斎藤環 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2020年1月30日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・218ページ
  • ISBN9784344985810

 ふだんあまり表面に出てこない「ひきこもり」の問題は、事件のたびに社会から注目を集めるという。本書『中高年ひきこもり』(幻冬舎新書)の著者で精神科医の斎藤環さんは、そう指摘する。

突然ベストセラーに

 斎藤さんが1998年に出した『社会的ひきこもり 終わらない思春期』(PHP新書)は、当初あまり売れなかったが、2年後に突然10万部を超えるベストセラーになった。2000年に起きた二つの事件、新潟県柏崎市で少女が9年以上もひきこもり男性に監禁されていた「新潟少女監禁事件」と九州で起きた「西鉄バスジャック事件」がきっかけだった。

 2件の加害者は、いずれも「ひきこもり」の厳密な定義に当てはまらないが、多くのメディアは「ひきこもり男性による犯罪」と見なした。

 ひきこもり問題に一時的に注目が集まったが、やがて関心は薄れた。久しぶりに注目が集まったのは、2019年のことだ。5月28日に川崎市のバス停で、51歳の男が小学生ら20人に刃物で襲いかかり2人を殺害した通り魔事件、その4日後には東京都練馬区で76歳の元農水省事務次官が44歳の長男を刺殺した事件が起きた。どちらも「中高年ひきこもり」がかかわる事件だった。

 ちょうど内閣府が40~64歳のひきこもり状態の人は全国に61万3000人いるという推計を発表した直後だった。しかし、斎藤さんは、実際には200万人以上にのぼり、いずれ「ひきこもり1000万人社会」が訪れるかもしれない、と警告する。有効な対策を立てるために、まずひきこもりに対する誤解と偏見を解かなければならない、それがこの入門書を執筆した動機だという。

ひきこもりへの誤解

 本書はまず、ひきこもりをめぐる10の誤解についての解説から始まる。

 1 ひきこもりの人は犯罪を起こす可能性が高い?
 2 ひきこもりは心の病気?
 3 ひきこもりはネットやゲームばかりしている?
 4 ひきこもりはほとんどが男性?
 5 ひきこもりは日本特有の現象?
 6 ひきこもりはやめなくていい?
 7 親が甘やかすからひきこもりになる?
 8 ひきこもりは自力で治る?
 9 ひきこもりはスパルタで治る?
 10 ひきこもりからの脱出は就労?

 いくつか斎藤さんの回答を簡単に紹介する。「むしろひきこもりは犯罪率が極端に低い集団」であり、ひきこもりの人とは「困難な状況にあるまともな人」である。「ひきこもりが原因の二次的な精神症状はある」、そして「統合失調症や発達障害と見分けられず誤診されることも」ある。

 また、男性ばかりではなく、「家事手伝い」「専業主婦」という隠れ蓑をまとった女性もいる。日本のほかに韓国、イタリアもひきこもりが多い国だという。アメリカやイギリスでは親元では生活させてもらえないため、ひきこもりになることはできず、ホームレスになるという。

 ひきこもりの原因として大きいのは「学校・職場など家庭外の人間関係」であり、「表面化していないがきわめて多い『いじめPTSD』」、つまり「いじめ後遺症」が原因で対人恐怖になった人も多いという。

 「抜け出すには家族以外の第三者の関与が欠かせない」が、スパルタで治るという誤解が、「悪徳業者」をのさばらせている、と指摘する。悪徳業者を取り上げたメディアの責任も大きいという。

 就労を決してゴールと考えるべきではなく、仲間と一緒に社会参加できる場が就労以外にもいろいろ用意されてほしいという。そのためには「説得・アドバイスよりマイルドなお節介」が大切だと。

 これらの誤解を解いた上で、本書は「第4章 家族のための対応のヒント」「第5章 家庭内暴力への対応のヒント」「第6章 ひきこもり問題の歴史・現状・未来」「第7章 成熟化した社会の未成熟な大人たち」と処方箋を探っている。

 ひきこもり問題へ先進的な取り組みをしている秋田県藤里町の例を紹介している。全戸調査を行ったところ、町民3800人、現役世代1293人のうち113人がひきこもりであることが分かった。現役世代の9%に当たる。日本の人口に当てはめると1000万人を超えてしまう。

 同町では就労支援の場をつくるとともに、ひきこもり支援と高齢者支援を一体化するなど世界でも類を見ないほど高度なサービスを提供しているという。

「8050問題」への対応

 親が80代になり、当事者が50代になるという「8050問題」を放置すれば、やがて孤独死が大量に発生する事態や生活保護など社会保障制度が破綻することが予想される。社会としてどう取り組んでいくべきかを斎藤さんは提案している。

 それとともにいま、現に苦しんでいる親に向けて「あなたを扶養できるのはあとX年」と宣言することなど、具体的な解決策を示している。

 BOOKウォッチでは、団塊ジュニア、就職氷河期世代を対象にした『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)を紹介したばかりだ。この中にはひきこもり状態の人もいた。中高年ひきこもりの予備軍とも言える人たちは世代的にも人口が多い。いまは自立しているが、何かの拍子に仕事をやめてひきこもることは十分起こりうる。

 中高年ひきこもりの問題は個人的な問題であると同時に社会の構造的な問題であるかもしれない。

  

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