ひきこもり関連の多くの著書を持つジャーナリスト池上正樹さんの新刊『ルポひきこもり未満』(集英社新書)は、ひきこもりや社会的に孤立する人たちに寄り添った出色のルポだ。
池上さんはKHJ全国ひきこもり家族会連合会事業委員や東京都町田市「ひきこもり」ネットワーク専門部会委員などを務め、ひきこもり体験者からの多くの相談に乗っている。ひきこもり以外にも社会から隔絶され行き場を失ってしまった人々も少なくない。いくつかのケースを紹介すると......。
40代男性は、URの事故物件ばかりを転々としていた。保証人不要で、一定期間安く住めるからだ。高校を1年で中退、その後6年間引きこもった。21歳からアルバイトや派遣で生活してきたが、数年前に派遣切れとともに「孤立無援」状態となった。公的にも民間の支援も対象外で著者にメールで窮状を訴えてきたのだ。貯金をくいつぶし、半年後には干上がる見通しだという。酒癖が悪く借金を抱えた父親、その父親と共依存で当事者能力のない母親。「ひきこもりにしては、親のために500万円くらいは使ったと思います」と語った。
その後、「ひきこもり大学」などいくつかのアイデアを著者とともに進めていた男性は自殺する。部屋は事故物件となってしまった。評者には男性は「毒親」の被害者のように思えた。
契約社員一般事務職をしている30代女性は東京都内の建築現場が仕事場だ。大学卒業後に入った会社は典型的なブラック企業で辞めた。20代は派遣の仕事があったが、30代に入ってからはまったく採用されないようになった。女性は子どもの頃から学生時代まで、毒親のような母親から虐待やきょうだい差別など理不尽な仕打ちを受けていたという。さらに小学校、中学校といじめを受け、ずっと感情を殺す人生を送ってきたため、マイナスに見られてしまうのではと考えてしまう。その後、ようやく現在勤めるゼネコンで派遣から契約社員に登用されたが、社員とは名ばかりで、男性ばかりの職場で御用聞きのような仕事をしているという。工事が終わるといつ契約が切られるかと恐れている。
母親と息子の母子家庭でのネグレクトや精神的虐待といった「機能不全家族」で育ったと自覚している40代男性は、家庭環境、とりわけ幼少期に適切な養育環境にないと苦労すると訴える。離婚した母親は養育を祖母に任せて、競馬場通い。学校になじめず中学校は3日しか行かなかった。上京して新聞販売店で働いたが、母親に見つかり、養うことに。その後母親を残して逃げ出した。今は生活保護を受けている。母親も祖母にネグレクトされていたという。毒親の連鎖は自分で断ち切らねばならない、と結婚は考えたこともない。
毒親とひきこもりには何ら因果関係はない。しかし、本書を読むと、学校になじめなかったり、うまく自分を表現できなかったり、ステップアップのための手段、方法を親によってふみにじられたケースが目立つような気がする。当然、進学や就職においては後手に回らざるを得ず、結果的にひきこもったり、生活に困窮したりする場面が増えるのだろう。
「自己責任」のことばの下に、切り捨てられてきた当事者が、責任を親に転嫁しただけと冷ややかに見る人もいるかもしれない。しかし、孤立しもがく人たちの声を聞くと、彼らにも言い分があるというものだ。「ひきこもりから成功」というタッチの本も出ているが、本書はのっけから「自殺」である。だが、この現実から目をそらしてはいけない。
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