就職氷河期に学校を卒業したため非正規労働に就いている人への支援を政府が始めようとしている。一部の自治体が彼らを対象に採用試験を行ったところ、非常な高倍率となり話題になったばかりだ。1976年からプラスマイナス5年の間に生まれた2000万人は、団塊ジュニアとか氷河期世代と呼ばれている。いまや40代。中年となった彼ら彼女ら15人に、その失敗談を語ってもらったのが、本書『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)である。彼らはどこでしくじったのか?
数人のプロフィールを紹介すると、こんな感じだ。ちなみに肩書は現職の人もいるが過去形の人もいる。
・テレビディレクター 大学卒業後、テレビ局を目指すも全滅で制作会社へ。40歳を過ぎたところで体調を壊し退職。現在は親元でニート生活。 ・お笑い 高校卒業後、大手芸能事務所の芸人養成校へ。一度もブレイクしたことはないが、しぶとくフリーで芸人を続けている。普通の社会人になるなら死ぬと言い切る。 ・バンドマン 高校在学中からバンド活動を開始、卒業後もフリーターを転々としながらデビューを目指す。現在は住み込みの期間工で糊口をしのぐ。 ・劇団員 大学在学中に小さな劇団に所属。卒業後就職するも1年で辞めて演劇一本に絞る。仕事は一度イメージビデオに出演しただけ。田舎に帰り結婚したが、夫にはそのことは内緒。子どもはいない。 ・子供部屋おじさん 地元で神童と呼ばれ県下一の公立高校に進学。しかし大学卒業時に就職氷河期が直撃、不本意な就職を経て現在は実家に籠もりネットの世界に没頭中。
全員匿名だが、おおよその出身地と家庭環境、学歴、職歴などを明かしている。なんとなく、こんな人もいるだろうな、とは思っていたが、生々しい言葉を聞くとインパクトがある。
いつの時代でも青春の夢破れて、という人はいるが、彼らはその数の多さ(団塊ジュニアだから)と競争の激しさで特徴づけられる。異口同音に「団塊ジュニアの敵は団塊ジュニア」と語っている。
小学校では1学年に12クラスなんていう団塊世代顔負けのすし詰め教室も珍しくなかった。まだ大学が現在ほど増設されていなかったので、大学受験では浪人が当たり前。いまはFランと言われるクラスの大学でも高倍率だった。「偏差値50前後から下の高校生にとって、当時大学全落ちは当たり前でしたからね、大学の滑り止めが専門学校」という話も。学歴や偏差値にこだわる人が多いという指摘もある。
さらに大学卒業時に就職氷河期を迎えた人が多い。本書の中にも有名なブラック企業に就職したが、捕まるのが嫌で退職。20年くらい実家でごろごろしている人が出てくる。一方、高卒の人はバブル期だったので、大手企業に入った人も少なくない。
もちろん成功した人もいる。しかし、出生数が多かった分、競争に弾かれて不本意な人生を送っている人が多いということなのか。
著者の日野百草さんは自身の経歴をあらまし、次のように書いている。
1972年生まれ。高卒で新聞社のアルバイトから大手出版社に潜り込み、それなりの人気ライターになったが、その立場は同世代の連中に奪われた。三流出版社に非正規で入社し、やがて自分の雑誌を持ったが、売れもしない本ばかり作る古株の同世代に役職を奪われた。
その後、通信制大学で学び、俳句の世界にも入り句集も出した。それまでの上崎洋一名でのサブカルチャーの仕事を生かし、現在は福祉学、社会学の観点から同世代を対象にフィールドワークをしている。近著に『ルポ 京アニを燃やした男 京都アニメーション放火殺人事件』(第三書館)がある。
「我々は過度の競争と景気の波に翻弄されてきた」と振り返りつつ、「氷河期のせいにするのも40代となるともはや甘えでしかない」と書いている。
必要なのは「諦め」であると同時に「再起」だと。
本稿では紹介しなかったが、本書に登場する15人の中には、社会的にはエリートの立場の人もいるが、その人間性に疑問を持たざるをえない人もいた。また漫画や自営業でそれなりに自立している人もいる。しかし、結婚できなかったり、さまざまな事情を抱えたりして、自分は「しくじった」と認識している人たちだ。
政府がこの世代への取り組みを始めたのは、この世代の親が80代になり、中には当事者が引きこもったまま50代になる「8050」問題が浮上してきたからだ。働かずにいまは親に寄生している人も、親の死とともに生活の基盤を失ってしまう。生活保護など社会保障費の増大を政府は恐れているのだ。本書でも「無職はほぼ手遅れでしょうけど、非正規はなんとかしたいですね」という言葉が出てくる。
ふだん表に出ない当事者たちが隠さずに自分を語った本として注目に値する。
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