2019年4月ごろから、中国地方や九州での書籍・雑誌発売日がこれまでより1日遅れている。ほかにも遠隔地で新たにそうなっている地区があるようだ。この一因は、幹線輸送を担っていたトラック輸送業者が、「働き方改革」への対応を求められ輸送能力が低下したことにあるという。物流のボトルネックが、出版業界にも大きな影響を与えているらしいのだ。
「働き方改革」という言葉が様々な業界でキーワードになり、各方面に影響を広げている。本書『トラック運送企業の働き方改革』(白桃書房)は運送業界、とりわけトラック業界をテーマにしている。「人材と原資確保へのヒント」という副題がついている。著者の森田富士夫さんは1949年生まれの物流ジャーナリスト。『トラック運送企業の生産性向上入門―誰にでもできる高付加価値経営の実現』など多数の関連書がある。
働き方改革については2019年4月1日、働き方改革関連法が施行された。一般的な産業よりも1~2割労働時間が多く、1~2割賃金が低いといわれる運送業では長時間労働が常態化してきた。もはやトラック業界でも改革待ったなし。すでに年次有給休暇5日取得が義務化された。猶予期間は設けられているが、長時間労働の抑制に向けて各社が対応に追われているという。
単に賃金体系や就業規則を変えればよいというものではない。実現するためには(1) 生産性の向上、(2)人材の確保、(3)原資の確保が必要となる。特に(3)については、社内だけでなく、顧客との折衝も含む取り組みとなる。そこで著者は「第1部 働き方改革先進事例――労働時間は短縮できる!」、「第2部 人材確保・定着先進事例――短縮時間分を補填する人材確保!」、「第3部 原資確保の先進事例――働き方改革のためには原資が不可欠!」という3点について、具体例を紹介しながら解決策を提示する。
わかりやすいところで、「第2部」を紹介しよう。人材確保にはどのような募集が有効か。本書では「エントリーの70%が入社」「週休3日制正社員の採用」などの実例が紹介されている。「女性の採用と活用」「定着率のアップ」などは、この業界以外でも、「3K」といわれる職場の人事担当者にとって参考になるのではないか。
「第3部」では、「改革には適正な売上拡大が必要」と強調する。具体的には取引先との値上げ交渉になる。経営陣の力量の見せどころだ。本書では特定荷主との取引がほぼ100%という中小事業者が、要望項目ごとに荷主と交渉して原資の確保や労働条件の改善を実現している事例も紹介されている。
著者は「働き方改革」について、これまでの「常識」が通用しなくなってきたと、発想の転換を促す。
かつて「初売り」は4日からだったし、「初荷」は2日からだった。正月に開いている店などほとんどなかった。それがいつの間か崩れ、「24時間戦えますか」になったのが日本社会だと振り返る。バブル崩壊後は、生き残るための競争に明け暮れ、営業時間の延長、年中無休が常態化した。物流のカギを握るトラック業界は、その大動脈を担ってきた。
その見直しが迫られることになったのは、労働者不足だ。団塊世代がリタイアし、少子化で日本では労働者確保が喫緊の課題となった。「働き方改革」をしなければ、労働者の確保ができない。トラック業界では2017年、ヤマト運輸が取扱荷物の数量抑制とサービス内容の見直しを打ち出したことが大きかった。「過去の成功体験が通用しない時代に入ってきたことを象徴する出来事」と記している。
これからどうすればいいのか。著者は「そんなに驚くことはない」。これまでを「正常」ととらえると、これからが「異常」となるが、逆の発想をすると、現在は「正常」に戻す動きが始まったと見る。自分たちが当たり前のように享受しているサービスや利便性が本当に必要なものなのか。少子高齢化という日本社会の構造変化が進む中で、いろいろと考え直す必要があるのではないか・・・。
著者は全日本トラック協会の広報誌に連載するなど、業界内のひと。語っていることは、いわば世間の「常識」だ。上記の「正常」「異常」の区分けでいえば、「正常」といえる考え方だ。評者はたまたま手にしたが、他業界の人も参考になる本ではないだろうか。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?