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中学校教員の6割が「過労死ライン」の残業をしている

教師のブラック残業

 教員の長時間勤務が問題となっている。このほど中央教育審議会特別部会が働き方改革に向けた答申素案をまとめるなど、ようやく政府も動き出した。本書『教師のブラック残業』(学陽書房)は、「定額働かせ放題」を強いる給特法の問題を明らかにし、現場の教師たちの声を取り上げている。

 教員の長時間労働について情報発信を続けてきた内田良・名古屋大学大学院准教授(教育学)と公立高校教員の斉藤ひでみさんが編著し、教員の夫を亡くし「神奈川過労死等を考える家族の会」代表の工藤祥子さんが執筆している。

 内田さんは端的に2つのブラック労働が学校という職場で常態化していると指摘する。第一が「長時間労働」。文科省の調査(2016年度)で「過労死ライン」(月80時間以上の時間外労働)を超える教員が、小学校で約3割、中学校で約6割いる。

残業はしていないというブラックジョーク

 第二が時間外労働の対価が支払われていないこと。つまり「不払い労働」だ。「給特法」という法律により、公立学校教員はそもそも残業をしないことになっているから、残業代も支払われないという論理。それってブラックジョーク?

 元凶となっている「給特法」の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」で、1971年に制定され、72年に施行された。同法は教員の仕事の特殊性を理由に時間外勤務手当は支払わず、代わりに月給の4%にあたる「教職調整額」を一律に支給すると定めている。これは66年当時の1週間の時間外労働の合計が小中学校で平均1時間48分と算定されたことに対応する。

 ところが2016年度の調査では小学校で18時間40分、中学校で24時間33分(いずれも週あたり)に増えている。なぜ、こんなに増加したのか。本書に匿名で声を寄せている現役教員によると、諸悪の根源は「部活動」だという。

 朝練習、放課後の練習、土日など休日の練習と部活動の指導に教員は多くの時間とエネルギーを費やしている。しかも自主的な活動とされ、報酬はない。

 本書は30代の中学校教員の声を紹介している。夏休みくらいは土日をオフにする計画を立てたら、保護者からクレームが入り実現しなかったという。上位入賞を果たすと高校のスポーツ推薦を得られるメリットがあるため、保護者からの要求はハードルが上がる一方だ。管理職に相談したがダメで、教育委員会に「部活顧問を辞めることはできないか」と相談したが、「顧問は勤務時間内は職務です。校長から命令されたら拒否できません。ただし時間外は自主的活動です」という訳のわからない回答だったという。結局らちがあかなかった。

 本書が刊行されたのは6月だがその後、中央教育審議会特別部会が働き方改革に向けた答申素案をまとめた。時間外勤務の上限として「月45時間、年360時間」のガイドラインなどを提案しているが、1年間で1兆円を超える、実態に見合う給与の財源確保のめどがないため、給与制度の改革には踏み込まなかった。

 中学校の教員が現在のように部活動に縛り付けられるようになったのは、1980年代以降だろう。中学校が荒れ、その対策にすべての生徒がなんらかの部活動、できればスポーツ部に入ることを強制する学校も現れた。また親もそれを望んだ。「部活は託児所代わりか」という声もあがった。学校はその後正常になったが、教員が本来の業務よりも「自主的」とされる部活動の指導で疲弊しているとしたら本末転倒だ。

 「給特法」も知らず、時間外のなんたるかもわからない若い教師も増えているという。一方では、教員は忙しそうだという理由で、小学校教員試験の倍率が2倍を切った自治体も出ている。「教師は聖職だから」という理由で、自民党が成立させた「給特法」。当時の議員も教員がこれほど忙しくなるとは予想していなかっただろう。こんな異常な状態をいつまでも放置したら、先生の成り手がマジいなくなる。

 本欄では内田さんの『ブラック部活動』も紹介済みだ。   

  • 書名 教師のブラック残業
  • サブタイトル「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!
  • 監修・編集・著者名内田良・斉藤ひでみ 編著 工藤祥子 著
  • 出版社名学陽書房
  • 出版年月日2018年6月13日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・167ページ
  • ISBN9784313653603

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