読むべき本、見逃していない?

地方のシングルマザーを襲ったおぞましい運命

ママ

 読むと嫌な気分になることから付けられた「イヤミス」の女王は、湊かなえさんだが、世にもおぞましい作風から「オゾミス」と呼ばれているのが、神津凛子さんの作品だ。

 第13回小説現代長編新人賞を受賞した『スイート・マイホーム』で2019年にデビュー、BOOKウォッチでも紹介した。評者もかなり怖い思いをした。受賞後第一作が本書『ママ』(講談社)である。おぞましさがさらに増しているので、読むなら少々の覚悟が必要だ。

密告する陰険な同僚

 主人公の後藤成美は、42歳のシングルマザー。11歳のときに母親は家庭持ちの男と駆け落ち、父親と故郷から逃げ出した。北陸に流れ、父親は長野で最期を迎えた。いま5歳の娘がいる。夫とは死別し、長野市郊外の団地に暮らしている。そうした事情は読み進むにつれて明らかになる。

 物語はいきなり監禁の場面から始まる。目覚めると、硬い床の上に転がされていた。固いプラスチックの紐で両手足を縛られている。男が現れ、成美の名前を呼び、希望も理由もないと告げて、部屋を出て行く。

 監禁の場面と成美の暮らしぶりが交互に描かれる。成美は半月前に勤めていた工場が倒産したため、スーパーに転職したばかりだ。店で総菜を作る仕事をしている。深夜の弁当工場で働く主婦たちが登場したのは桐野夏生さんの名作『OUT』だ。仕事はきついが、彼女たちには連帯感があった。

 成美にも親しくなった同僚はいるが、娘に食べさせようと廃棄処分になる食材を一度だけ持ち帰ったことを密告する陰険な同僚もいて、あまり心を許すことは出来ない職場だ。また、向かいに引っ越してきた老女はプライバシーに介入し、勝手に娘を預かり、トラブルを起こす。

 ここで描かれているのは、地方で精神的に追い詰められながらも懸命に生きようとするシングルマザーの姿だ。もちろんミステリーとしての骨格を備えた作品だが、評者はそういう読み方をした。

 BOOKウォッチでは、先日、『性風俗シングルマザー』(集英社新書)を紹介した。普通の仕事ならば半日から一日働かなくては得られない収入をわずか1時間で稼げるデリヘルなどの性風俗に、地方のシングルマザーが大挙して流れている実態が報告されていた。

 本書の主人公は出産後、白髪が増え染めてはいるが、最近眉毛にも白いものが混じるようになった。「ママ、おばあちゃんになるの?」と言われ、ショックを受けたくらいだから、容姿への自己評価は低い。だから、まちがっても性風俗に流れることはないだろう。その分、きつい労働が待っている。

著者は歯科衛生士

 物語が進むと、成美にはさらに厳しい試練が訪れる。ここでとても書けないような仕打ちが続く。

 著者の神津凛子さんは、1979年長野県生まれ。歯科衛生士をしながら、5年前から小説を書いている。

 冷え冷えとする地方都市の姿が読み終えても頭から離れない。成美はなぜ監禁されたのか、おぞましい暴力の果てに何が待っているのか。著者の本業が作品のディテールを支えたのだろう。謝辞は歯科医院の院長に捧げられている。

 「オゾミス」はまだ2作目だ。もう行くところまで行ったような気もするが、この路線から目が離せない。

  • 書名 ママ
  • 監修・編集・著者名神津凛子 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2020年1月 6日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・269ページ
  • ISBN9784065176955

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