家を建てるとき、人は夢を抱いているだろう。ここで、幸せな家族を築いていこうと。だが、その家が災いをもたらしたとしたら......。
本書『スイート・マイホーム』(講談社)は、第13回小説現代長編新人賞受賞作。著者の神津凛子さんは、1979年長野県生まれ。歯科衛生士をしながら、4年前から小説を書き始めている。デビュー作だが、現在4刷。世にもおぞましい「オゾミス」誕生というカバーの文言はウソではなかった。心底、怖いものを見たような気がする。
東京生まれだが、長野で育った清沢賢二は、スポーツジムのインストラクターだ。ほかにも予備校で教えたり、家庭教師をしたりと副業で忙しい。長野の冬は長く厳しい。寒がりの妻のために、たった1台のエアコンで家中を暖められる「まほうの家」を購入する。地下の大きな空間に置かれたエアコンがそのカギだ。
ところが、引っ越した直後から奇妙なことが起こり始める。我が家を凝視したまま動かない友人の子ども。赤ん坊の瞳に映るおそろしい影。地下室で何かに捕まり、泣き叫ぶ娘。さらに賢二と不倫相手の女性にも不審なメールや郵便物が届くようになる。
いったい誰が悪意をもっているのか不信が広がる中、とうとう関係者の一人が怪死を遂げる。賢二も警察にアリバイを尋ねられる。
賢二が結婚して築いた家族のほかに、長野には賢二の実家があった。統合失調症の兄と年老いた母親が二人で暮らしていた。閉所恐怖症の賢二は兄に押し入れに閉じ込められ、パニックになった苦い思い出があった。この閉所への恐怖が伏線となり、後半の展開に結びつく。
視点を替えた描写がところどころにある。人の心はわからないというが、そんなことを考えながら、親しそうに対応していたかと思うと、人間不信になる。
「理想の家族」への執着がもたらした狂気が、周りにも感染するかのように登場人物の思考をむしばんでゆく。最後は、「ここまで書くのか」と恐ろしくなるような描写で終わる。
「家」はミステリーの舞台として、しばしば登場するが、これほど後味の悪い小説も珍しいだろう。だが、4刷と増刷を続けているのだから、ぞくっとする不快感が支持を得ているということか。
「家」といえば、今年(2019年)、横山秀夫さんの『ノースライト』(新潮社)も家を舞台にした作品だった。施主一家がこつぜんと消えていたというミステリーで、設計した建築家が足取りを追うという趣向で、こちらはさわやかな読後感が残った。
家族にはそれぞれの家がある。
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