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3.11「無縁仏」はDNAデータベースで再調査を!

  • 書名 DNA鑑定
  • サブタイトル犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで
  • 監修・編集・著者名梅津和夫 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年9月19日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・256ページ
  • ISBN9784065172858

 シベリアなどで収容した多数の戦没者遺骨が日本人のものではない可能性が高まり、問題になっている。かなり前からDNA鑑定の結果などをもとに、専門家から疑問が出ていたのに厚労省は対応していなかったというのだ。

 本書『DNA鑑定――犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで』(講談社ブルーバックス) は長年そのシベリア遺骨のDNA鑑定に関わってきた山形大学医学部法医学教室客員准教授・梅津和夫さんの著書。きわめて時機を得たものだ。

身元判明は1000柱

 本書では当然ながら、そのシベリア遺骨問題について触れられている。約2000か所の抑留地で日本人が強制労働などに従事させられ、約6万人が命を落とした。これまでにシベリアの墓地などから約2万柱の遺骨が厚生労働省によって収骨され、里帰りした。

 収集された遺骨は誰のものか。DNA鑑定によって特定する作業は、2000年ごろから遺族の私費によって始まり、03年から公費で行われてきた。梅津さんは父親がシベリア抑留者だったこともあり、真っ先に鑑定人として名乗りを上げたという。

 これまでに約1万柱についてDNA鑑定が行われ、約1000柱について身元が確認されたという。一割しかわかっていない理由は単純だ。鑑定をするには、遺骨と遺族、双方のDNA鑑定が必要になる。それにより、初めて身元が確定する。ところが遺族側が鑑定に応じたのは約20%。血縁者が見つからなかったり、鑑定を希望しなかったりするケースが多いためだ。つまり遺族の鑑定が行われた場合は、約50%の確率で判明しているという。

 本書では、このところ問題になっている遺骨の取り扱い不備については特に深くは書かれていない。

「大発見」は本当か

 梅津さんは知人から、「今ではネアンデルタール人のDNA鑑定もできるぐらいだから、戦没者の鑑定は楽勝だろう」と言われたことがある。しかし、実際には簡単ではない。DNAはいわば「生もの」。死ねば微生物の餌になり、環境によっては数時間から数日ですっかり分解されてしまう。もちろん保存状態がよければ、太古の生物であってもDNAは容易には損なわれない。したがって、1万年前の人骨より、50年前のそれが鑑定しやすいということではない。抑留者の人骨も同じで、墓地での埋葬状況によって大きく異なるのだという。遺骨の中で残っている部分にもよる。

 梅津さんは類似研究を素材に、いくつかの難しさを指摘する。たとえば古代人骨のDNAでは、サンプルを扱う途中で現代人が触れている可能性もある。何年か前、中国山東省の遺跡から見つかった古代の中国人は、ヨーロッパ人に近いタイプ、という驚きの調査結果が発表されたことがあった。これについて梅津さんは、検出キットの「汚染」を想定する。サンプルに残るDNAが少ないと、ごく微量のキットの汚染でも結果に大きく影響する。欧州製のキットを使い、その過程で汚染があったのではないか、というわけだ。

 人類学などで、しばしば華々しく発表されるこうした「新事実」「発見」については慎重な姿勢を示す。

20世紀中期の3大発見

 梅津さんは山形大学の農学部出身。子どものころから鳥海山のふもとを駆け巡り、昆虫採集が好きで自然を相手にする仕事に就きたいと思っていた。何かのはずみで法医学に転身し、黎明期だったDNA研究を教授から勧められ、この道にのめり込むことになったそうだ。

 20世紀中期以降の科学分野で、大発見といわれるのは、ビッグバン、プレートテクトニクス、DNAの三つだという。いずれも日本の高校で理科系の教科書に登場するのは1970年前後からではないだろうか。梅津さんはスタートが早く、確かに、DNA研究の草分けの一人だ。山形大医学部法医学教室では、いくつもの研究成果を生んできたという。

 身元不明遺体の確認ということでは東日本大震災についても触れている。いまなお2533人が行方不明。遺体は見つかったが、身元が判明していない無縁仏はいまだに60体ほどあるという。梅津さんは、身元が判明していない犠牲者と、行方不明者を探している家族や血縁者のDNAデータベースを早急に構築すべきだと提言している。遠い親戚であっても鑑定の精度が上がり、身元不明遺体は激減するはずだと訴える。さらに、それが進まない理由についても書かれている。

本当の意味での「入門書」

 本書は「第1章 DNA鑑定『前夜』」、「第2章 なさねばならぬDNA鑑定」、「第3章 少しだけ学ぶDNA鑑定の原理」、「第4章 世にDNA鑑定の種は尽くまじ」、「第5章 DNA鑑定が明かす日本人の起源」、「第6章 DNA鑑定で迫る生物の謎」、「第7章 犯罪捜査とDNA鑑定」の構成。きわめて興味深いテーマが並び、最新事情を知ることができる。

 「初期のDNA鑑定が引き起こした『冤罪事件』」「科捜研のDNA鑑定が抱える『決定的な欠陥』」「DNA鑑定でこんな『事件』も解決してきた」などはマスコミ関係者にとって有益だろう。「『新説』縄文人はどこで誕生したのか?」「ネアンデルタール人と現代人は混血したのか?」などは人類史や日本人の起源に関心がある人向けだ。

 DNA鑑定については「入門書」といえども小難しく書かれているものが多いという。本書はそれらと一線を画し、本当の意味での「入門書」を目指したという。

 とはいえ、DNA鑑定の歴史と理論、判定法はなかなか複雑。それを理解しないと、著者の苦労がわからない。文科系人間の場合、読んだとたん頭から消えてしまうかもしれないが、実例部分が盛りだくさんなので、現状を知るには好書といえる。

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