読むべき本、見逃していない?

やがて「複製されたヒト」が現れる

  • 書名 ゲノム編集の光と闇
  • サブタイトル人類の未来に何をもたらすか
  • 監修・編集・著者名青野由利 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2019年2月10日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・234ページ
  • ISBN9784480072023

 ゲノム編集という言葉にはあまりなじみがなくても、親の望み通りの赤ちゃん「デザイナーベビー」を実現するかもしれない技術だときけば、関心をもたれる方も少なくないのでは。本書『ゲノム編集の光と闇』(ちくま新書)は最先端の生命科学技術を基礎から解きほぐす。

「中国でゲノム編集人間誕生」

 筆者は薬学部出身。現在は毎日新聞社論説室専門編集委員。遺伝子組み換え技術の急激な進展を長年追ってきたベテラン科学記者。ゲノム編集の仕組みと発展の歴史の説明は少々ややこしいが、この技術がさらに発展すれば、遺伝病を治したり能力の高いこどもを生んだりすることができるようにもなる――そんな最新の遺伝子編集ツールCRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)の開発と応用、その問題点についての報告である。

 遺伝子組み換え技術は1980年代からあり、その成果である遺伝子組み換え大豆などはすでに市場に出回っている。しかし、当時の遺伝子組み換え技術は、いろいろ試してみて、その中から目的の性質を持ったものを選び出す作業が必要で、とてもヒトの受精卵を操作できる代物ではなかった。

 2012年8月に論文が発表されたクリスパー・キャス9は、「狙ったDNA配列(遺伝子)を、効率よく、正確に切り貼りできる」手法だった。精度が高まれば人にも応用できる。遺伝病の治療に向けた様々な研究が始まった。

 そんな動きの中で、18年11月に「中国でゲノム編集人間誕生」が発覚した。中国深圳市にある南方科技大の賀建奎(フージェンクイ)准教授が、「エイズウイルス感染にかかわる遺伝子を壊し、エイズにかかりにくい受精卵をつくり、体内に戻して双子の女の子、ルルとナナちゃんを誕生させた」というのだ。

 やり方は以下のようなものだった。双子の両親は、父親がエイズ陽性、母親が陰性だった。賀は、洗浄した精子を卵子に顕微授精させた。この受精卵にクリスパー・キャス9を作用させて、「CCR5」というエイズウイルスの受容たんぱくの遺伝子を壊して、エイズが感染しにくい受精卵を作った。それらの改変受精卵を5日間培養し、4個の受精胚について細胞を遺伝子診断し、2個に目的の遺伝子変異があることを確認、その2個を胎内移植したという。

「受精卵を改変」の規制どうする

 遺伝子組み換えをした受精卵の胎内移植は多くの国が法律で禁じており、中国でも同様だという。どんな副作用があるのか分からないうえ、その性質は代々受け継がれ、人類全体にも影響するかもしれないからだ。今回のケースでも、「CCR5」を壊すと西ナイル熱などにかかるリスクが高まるという。賀は中国でも批判されている。しかし、双子を罰することはできない。

 一方、遺伝病を治すため、効果が本人だけ(遺伝しない)の体細胞の遺伝子に手を加える「ゲノム編集治療」の研究は盛んにおこなわれている。クリスパー・キャス9の手法がさらに磨かれ、まさに狙った通りの働きを発揮できるようになれば、「深刻な遺伝病を防ぐため、受精卵改造を」という議論が出てきても不思議はない。そんな適応が増えていけば、その先には「人間の能力を高めるために受精卵を改変」することに対するハードルも低くなっていくことも想像に難くない。

 リー・M・シルヴァー・プリンストン大学教授は1998年に著した『複製されるヒト』の中で、遺伝子組み換え技術の進展で、「人類はいつか、自然な人間と遺伝子改良された『ジーンリッチ』人間とに分かれるかもしれない」と指摘している。

 当時は「トンデモ説」と思った。しかし、技術の進歩は、リー教授の指摘を現実にする直前にまできているようだ。どこで、どのような歯止めをかけるのか。生まれた子に罪がないとすれば、実効性のある規制方法はあるのだろうか。

 賀を、デザイナーベビーを誕生させた英雄にしてはならないと思うのだが......。11月24日にはこの問題についてのフォーラムが日本学術会議で開かれる。

 BOOKウォッチでは関連で『合成生物学の衝撃』(文藝春秋)、『マンモスを再生せよ』(文藝春秋)なども紹介している。

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