本書『背中の蜘蛛』(双葉社)は、警察小説の新しい流れを創りだした誉田哲也さんの最新作。1月15日に発表される直木賞の候補作だ。
誉田さんの作品では、『ストロベリーナイト』(2006年)が竹内結子主演で連続ドラマ化、映画化もされ、有名だ。姫川玲子シリーズと言えば、知っている人も多いだろう。また特殊犯捜査係(SIT)を舞台にした『ジウ』三部作も黒木メイサ、多部未華子主演で連続ドラマ化された。いずれも個性的な女性刑事が登場するのが特徴だ。
そんな先入観で読み始めたら、いささか勝手が違った。本書は「第一部 裏切りの日」「第二部 顔のない目」「第三部 蜘蛛の背中」の三部構成。登場する刑事はみな男性だ。
第一部の主人公は警視庁池袋署の刑事課長・本宮。西池袋で起きた男性の路上殺人事件の捜査にあたる。いまは犯罪捜査で防犯カメラの画像解析が大きな役割を果たしている。「足を使っての捜査に警察は弱くなっている」と思う本宮だが、本作でも警視庁のSSBC(捜査支援分析センター)による画像分析で、黒いスーツの男が浮上する。被害者が追われているのではなく、反対に被害者が黒いスーツの男を尾行しているように見えた。いったい誰なのか?
捜査が膠着している中、警視庁刑事部捜査一課長の小菅から本宮に有力な情報が耳打ちされる。指揮系統を逸脱する指示を受けるが、すぐに被疑者の逮捕につながった。小菅は何を狙っていたのか、その意図を測りかねているうちに第一部は終わる。
本作は短編集なのか長編なのか見当がつかずに、第二部に入る。警視庁組織犯罪対策部組対五課の警部補・植木らは薬物の売人・森田の監視を半年以上続けていた。森田が新木場のライブホールに向かい、コインロッカーに近づいたので、取引かと接近する植木。森田がロッカーを開けると、爆弾が爆発。森田は死亡、植木は大けがを負う。
今回もSSBCの画像分析から、不審な花屋が捜査線上に浮かぶ。だが、突然被疑者が逮捕される。捜査本部にタレコミがあったというのだ。いったい何があったのか、不審に思う植木の前に、警視庁捜査一課の管理官となった本宮が現れる。第一部と第二部はつながっていたのだ。
そしてタイトルにもなっている第三部が始まる。圧倒的に長い。第一部と第二部は、このための序章だった。第三部の筋にはここでふれない。「読後、あなたはもうこれまでの日常には戻れない」という帯の文言は、けっして大げさではない。私たちの日常生活に不気味な何かが侵入したような「嫌な」感じが残る。
植木と本宮。同じ警視庁の捜査員ではあるものの組織が違う二人の刑事が、いま警視庁で起きている「異変」の正体に迫っていく。
「もしかしたら日本で現実に起きているのでは」という不安と闘いながら、読み終えた。
本書は絶対に最後のページに掲げられた「参考文献」を最初に見てはいけない。何がテーマになっているか分かってしまうからだ。
最初のページから何も先入観をもたずに読んでいただきたい。そして、最後のページに至り、本作は警察小説なのか何なのか分からない宙ぶらりんの気分のまま、ため息をつくことになるだろう。
誉田さんは、この一作で、日本の警察小説のまったく新しい地平を切り開いたといっても過言ではない。捜査が変わった。警察が変わった。警察小説も変わらざるをえないのだ。
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