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韓国の大学生の「英語力」に打ちのめされた!

グローバル人材へのファーストステップ

 国際化時代の人材づくりを目指して、近年、大学では様々な取り組みが行われているらしい。その全容を知る立場にはないが、本書『グローバル人材へのファーストステップ――海外の学生とPBL / TBLで学び合う』(九州大学出版会)が伝えるのは九州大学の実例だ。読んだ限りでは、なかなかよくやっているのではないかと感じた。

18日間の寝食をともにする

 九州大学は周知のように、旧帝大である。九州では「地域の東大」になっている。ゆったり構えていても、地位は盤石のように思えるが、本書によると、「国際化」に対応した取り組みに力を注いでいる。

 その代表例が、本書が紹介する「アジア太平洋カレッジ」(College of Asia Pacific、以下CAP)だ。学部の1、2年生を対象とした「国際体験」型の共同教育プログラム。韓国、台湾、ハワイを連携相手としている。

 台湾の場合、まず台湾と日本の学生が福岡に集まり、9日間学ぶ。そして10日目には場所を台北に移して、さらに9日間学ぶ。参加学生は計18日間の寝食をともにする。

 日本と韓国の学生がハワイに集まる、というパターンもある。その場合はハワイ州立大学に集まり、約3週間にわたってハワイ側の学生たちと学び合う。

 このプログラムのスタートは2011年。まず九大と釜山大の「日韓海峡圏カレッジ」として始まった。日本からは九大のほか、西南学院大、鹿児島大、韓国からは釜山大のほかソウル大、高麗大、延世大が加わるようになった。徐々に相手を増やし、15年からハワイ州立大、18年から台北市の国立政治大も参加している。

 本書の著者は、担当教員としてこのプログラムを推進している九大の韓国研究センター准教授、崔慶原さん。副題にある「PBL / TBL」というのは、PBL (Problem-Based Learning)とTBL (Team-Based Learning)のこと。

「九州」という地域性

 当初は現地体験が主目的だった。しかし、回を重ねるにつれ、バックグラウンドが異なる海外の学生とともに学び合う協働学習の場としてのプログラムに発展していったという。テーマも「少子高齢化」「外国人労働者の受け入れ」「災害と安全」「安全保障」など東アジア地域に共通する課題を設定、それぞれの国や地域での取り組み、捉え方を話し合い、解決策を見つけるために学び合うという形になった。

 こうした試みを可能にしたのは「九州」という地域性もあるようだ。何しろ九州はアジアに近い。最初に韓国、それも釜山の大学と連携することになったのは、とくに福岡から近く、学生にとって経済的にも心理的にも負担が少ないことが理由の一つだった。

 日韓関係はいろいろと難題を抱えている。それらの問題を二国間だけではなく、さらに「ハワイ」という第三の場所を設定することで、相対化する視点も設定した。ハワイは歴史的に両国から移民を受け入れており、親和性もあった。

 台湾もまた九州から近い。近年のスィーツブームなどもあって学生には何かと身近だ。少子高齢化など共通する課題を抱えている。一方では外国人労働者を積極的に受け入れるなど、参考になる一面も持つ。中国・香港との複雑な関係なども含めて、日本の学生とは全く違った政治意識や緊張感のもとで生きているから刺激的だ。

事前に約2か月間の英語特訓

 会話はもちろん英語ということになる。日本の学生たちは当初、韓国の学生たちの英語でのプレゼンテーション能力の高さに驚き、非常な刺激を受けたという。本書には、参加した女子学生の「悔しさと危機感」を味わったという声が掲載されている。全く議論に加わることができず、完全に打ちのめされたというのだ。「将来、この人たちとビジネスをしたら、絶対に対等に渡り合えない」という思いから、大学生活の目標を「国際的に活躍できる人材になる」と掲げ、精進したという。4年前に卒業したこの学生は、現在は香港で働いているというから、プログラムの成果というべきだろう。

 韓国や台湾、さらには中国の学生は総じて英語力が高いといわれている。評者は10数年前、中国の名門、北京大学の関係者に「北京大では何割ぐらいの学生が英語を喋れるのですか」と聞いたことがある。相手は「もちろん、全員がしゃべれますよ」とけげんな顔をしていた。同じころ、日本の高校から直接、上海の大学に進学した学生から聞いた体験談も記憶に残っている。中国の学生は非常に勉強熱心。それゆえ自分も必死で勉強した、もし自分が日本の大学に行っていたら、こんなに勉強することは絶対なかったと思う、としみじみ話していた。

 九大では毎年数十人がこのプログラムに参加しているようだ。事前に約2か月間の英語特訓を受けている。アジアからの観光客も多く、ビジネスでもつながりの深い九州で、こうした取り組みが地道に行われていることに拍手を送りたいと思う。10年、20年後にさらに参加学生たちのネットワークが強化され、国を超えたつながりが緊密になるに違いない。できれば中国本土や香港の学生との交流を深めてもらいたいものだ。

  • 書名 グローバル人材へのファーストステップ
  • サブタイトル海外の学生とPBL / TBLで学び合う
  • 監修・編集・著者名崔慶原 著
  • 出版社名九州大学出版会
  • 出版年月日2019年10月14日
  • 定価本体2500 円+税
  • 判型・ページ数四六判・210ページ
  • ISBN9784798502717
 

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