食べ歩き評論家の下関マグロさんは、仲間の北尾トロさんとともに「町中華」のブームをつくった人だ。町中華探検隊副隊長としてCSテレ朝チャンネル「ぶらぶら町中華」にレギュラー出演している。
その下関さんが50年に及ぶナポリタン食べ歩きの成果を書いたのが、本書『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)だ。
ナポリタンと聞くと、昔喫茶店で、他にたいしたメニューがないので仕方なく食べたような気がする。トマトケチャップの味と具材のウインナーはどこの店でも共通していて、あまり個性を感じたことはなかった。
だから、近年「ロメスパ」が秘かなブームになっていることを本書で知り、驚いた。「ロメスパ」の「ロメ」とは「路傍の麺」のことで、「スパ」はスパゲティのことだ。立ち食いそばのように気楽に入れるスパゲティ屋さんを指すそうだ。当然、ナポリタンも定番になっている。ロメスパには3か条があるという。
1 茹で置きスパゲティを炒めて提供 2 スパゲティは極太 3 大盛りが可能
「第1章 何度でも食べに行きたい名店!! 下関マグロの極私的ナポリタンランキング」では、東京・大手町にあるリトル小岩井と銀座にあるジャポネ、チェーン店のパンチョなどを紹介している。
リトル小岩井はサラリーマンの行列が出来る繁盛店で、「油少なめ」とか「焦がしめ」というコールが多いのが特徴だ。ジャポネはレギュラー(並)350グラム、ジャンボ(大盛り)560グラム、横綱720グラムと大盛りメニューが充実。さらに横綱を食べた人だけに親方900グラム、理事長1100グラムという裏メニューがあるが、食べきれるのだろうか。パンチョは小盛り300グラムと中盛り400グラム、大盛り600グラムが同一料金で食べられる。この3種類が同一料金というのが成功の理由だと下関さんは見ている。
ところで、下関さんがナポリタンにかかわったのは大阪の大学時代のアルバイトに始まる。レストランの厨房で働いた。ナポリタンソースは大きな缶詰に入っており、そのまま湯煎して使ったという。そして上京し、ライターになり、原稿にオーケーが出ると、新橋や銀座でナポリタンをよく食べた。2001年3月には雑誌「スタジオボイス」の企画で、1か月毎日ナポリタンを食べ続けた。店名とナポリタンの写真の一覧が本書に載っている。当時書いた文章には、80年代半ばからパスタ屋さんが増え、ペペロンチーノ、ボンゴレ、カルボナーラなど本場イタリアのパスタメニューが当たり前になると、ナポリタンは少しずつ忘れ去られるようになった、とナポリタン衰亡説を唱えている。
それを読んだ「週刊SPA!」からナポリタンについて取材を受けたのが翌02年のことで、「いつ消えるかわからない中途半端な魅力」とここでも懐疑的なことを書いている。その後のナポリタンブームの到来を予想できなかったようだ。
本書はこのほか、「散歩がてら見つけた個性的すぎるお店 ぶらり下町ナポリタン」「いかにして日本人のソウルフードになったのか 激動の"日本ナポリタン史"」の各章で店を紹介しながら、ナポリタンの歴史を振り返っている。
さらに、「本当においしいナポリタンをつくってみる」という実用的な章もある。その「一工夫」のポイントは以下の7つだ。
1 麺は太麺を使う 2 通常の茹で時間よりも1、2分長く! 3 麺は一晩寝かせると、もちもち感がアップ! 4 材料や調味料はできるだけシンプルに 5 調味料はケチャップ3:ウスターソース1 6 まずはケチャップを加熱して、酸味を飛ばす 7 麺をちょっと焦がすのがポイント
ナポリタンの起源は戦後、米軍がトマトケチャップとともに日本に持ち込んだという説が有力だ。また、初めて店が出したのは横浜のホテルニューグランドにあるザ・カフェというレストラン。こちらではトマトソースをベースにつくっている。ケチャップ味のナポリタンも横浜のセンターグリルという店で、本書の極私的ランキングでは4位に入っている。起源については大正時代にすでにあったなど、諸説あることについて先行書を挙げて紹介しているのも率直だ。
ランキングはあるが、特定のお店のナポリタンをオススメしているのではなく、「あなたの近所にあるナポリタンに目を向けませんか」というのが本書の趣旨だ。実際1位になっているのは、下関さんが住んでいる東京・入谷のSUNという店。麺はアルデンテでちょっとピリ辛のオリジナルな食感に衝撃を受けたそうだ。
読むとナポリタンを食べたくなること請け合いの一冊だ。
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