読むべき本、見逃していない?

ウェルズ『タイム・マシン』が予想できなかった20世紀の出来事

  • 書名 人類の意識を変えた20世紀
  • サブタイトルアインシュタインからスーパーマリオ、ポストモダンまで
  • 監修・編集・著者名ジョン・ヒッグス 著、梶山あゆみ 翻訳
  • 出版社名インターシフト発行、合同出版発売
  • 出版年月日2019年9月 5日
  • 定価本体2250円+税
  • 判型・ページ数四六判・392ページ
  • ISBN9784772695657

 21 世紀に入って早くも20年近くが過ぎた。本書『人類の意識を変えた20世紀―― アインシュタインからスーパーマリオ、ポストモダンまで』(インターシフト発行、合同出版発売)は少し落ち着いたところで、改めて20世紀を振り返ったものだ。副題にあるように科学からアートまで幅広いジャンルを扱っている。「平成回顧」とは違って、世界をテーマにしているので日本人には手に余るテーマだ。

ゴーギャンからピカソへ

 著者のジョン・ヒッグスさんはライター、文化史家。『ガーディアン』『インディペンデント』などに寄稿している。著書に、『The KLF ハウス・ミュージック伝説のユニットはなぜ100万ポンドを燃やすにいたったのか』(河出書房新社)など。

 本書の冒頭で、著者は2010年にロンドンのテート美術館で「ゴーギャン回顧展」を見たときの驚きを書いている。

 19世紀末のタヒチに溢れる豊かな色彩と、罪悪感のない性。人も自然も聖なるものも、渾然一体となっている。何時間も巡り歩いて、展示室の出口に近づく頃には、『エデンの園もかくあるべし』という気持ちになったものだ」

 部屋を出て次に20世紀美術の展示室に入ると、著者は大きな衝撃を受ける。ピカソ、ダリ、エルンストらの作品が飾られていた。とっさに照明が変になったのかと思ったという。だが、そうではなかった。作品のせいで、絵が冷たく感じられたのだ。「一つの世界から別の世界に足を踏み入れることが、これほどの衝撃を受けるとは」と振り返っている。

 確かにピカソの「青の時代」は1901~04年ごろの作品だ。群青色や黒が主体で闇の世界に引き込まれそうになる。ダリの作品はなぜか画面の世界が奇怪に歪む。エルンストなど超現実主義者の作品群も日常の背後に隠れた底知れぬ不気味さを醸し出す。これらはアーティストが予感した「時代の変調」といえるだろう。

 展示室をまたぐことによって、著者は19世紀と20世紀が「別の世界」であることを痛感するのだ。

意識や精神が変容

 本書は、以下の構成になっている。

 「はじめに ◎ 暗い森を巡る冒険」「 第1章 相対性 ◎ 世界のヘソが消えた」「第2章 モダニズム ◎ 割れた視点」「 第3章 戦争 ◎ 帝国の崩壊とテクノロジー」「第4章 個人主義 ◎ 男も女も一人ひとりが一個の星」「 第5章 イド ◎ 操られる無意識」「 第6章 不確定性 ◎ 生きていると同時に死んでいる猫」「 第7章 サイエンス・フィクション ◎ 単一神話から複雑な物語へ」「第8章 虚無主義 ◎ 生は絶望の向こう側で始まる」「第9章 宇宙 ◎ 人類は月へ行き、地球を見つけた」「第10章 セックス ◎ 女性を解放しなかった性革命」「 第11章 ティーンエイジャー ◎ 反逆者のジレンマ」「第12章 カオス ◎ 自然は予測不能で美しい」「第13章 成長 ◎ 経済と環境がぶつかるとき」「第14章 ポストモダン ◎ 「知の底なし沼」から「確かさ戦争」へ」「第15章 ネットワーク ◎ 他者とつながる力の未来」

 20世紀に起きた様々な現象を、少し角度を変えながらジャンル分けし、まとめている。非常に多岐にわたっているのは20世紀がそういう時代だったということの証でもある。巻末の「解説」で本書の出版プロデューサーでもある直柴隆弘氏が「本書はとくに人間の意識・精神が、この激動の世紀にどのように変容したのかを描き出す」と書いているが、適切な要約だと思う。本書は「素晴らしく刺激的な物語」(フィナンシャル・タイムズ)など海外メディアでの評価も高い。

20世紀が21世紀を縛る

 評者は科学に疎いが、20世紀を振り返って、人類に与えた最大級の衝撃的産物は、原爆とコンピューターではないかと想像する。世界最高レベルの科学者が開発した原爆は戦争を終わらせたが、次の戦争での人類滅亡の危機を現実のものとした。コンピューターは空前の進歩を遂げAI時代が近づいている。『サイバー完全兵器』(朝日新聞出版)によれば、次なる戦争はサイバー戦争、AI戦争になるのではないかと懸念されている。

 ネットで調べると、これらに深く関わっているのが、20世紀に発見された相対性理論だという。その意味では20世紀は21世紀以降の人類をも縛っているのが現状と言える。本書も当然ながら第一章をアインシュタインから書き始めている。そして、H・G・ウェルズが1895年に発表したSF小説『タイム・マシン』に書かれていないこととして、相対性理論、核戦争、量子力学、マイクロチップなどを挙げている。こう並べると、21世紀とは20世紀の延長に過ぎないことがよくわかる。誰もが思い当たる21世紀の新発見は「重力波」ぐらいだろう。これもアインシュタインに予言されていたものだ。

 本書のように政治、経済、科学、心理、思想、文化など多数の領域を横断しながら、力仕事で整理再構成するというのは欧米系のジャーナリストの得意の手法だ。BOOKウォッチでも『「いいね! 」戦争――兵器化するソーシャルメディア』(NHK出版)、『ヒトラーとドラッグ――第三帝国における薬物依存』(白水社)などを紹介している。本書関連では『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』(筑摩書房)、『ドローン情報戦――アメリカ特殊部隊の無人機戦略最前線』(原書房)、『宇宙はどこまでわかっているのか』(小谷太郎著、幻冬舎新書)なども紹介している。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub