2018年は明治維新150年、ロシア革命約100年、さらに言えば全共闘50年・・・。というわけで全共闘関係の本もこのところ、いくつか目にする。最近の若者たちからは、余り評判が良くないらしい全共闘だが、なかなかしぶとい。
本書『フォトドキュメント東大全共闘1968‐1969』(角川ソフィア文庫)は2007年に新潮社から単行本として出版されたものに、初公開写真を加えて再構成し、文庫化したものだ。「バリケード内部を撮った唯一の写真集」という副題が付いている。
収録されている写真は、いずれも女性写真家の渡辺眸さんの撮影だ。ネットで調べると1942年生まれ。大学を出てから写真学校で写真を学び直した人のようだ。東大全共闘の、バリケード内を継続的に撮影していたのは渡辺さんだけといわれており、知る人ぞ知る存在。なぜそんなことが可能だったのかと不思議に思っていたのだが、「まえがき」に記された本人の弁によると、東大全共闘の代表になった山本義隆さんの奥さんと以前から親密で、彼女のアパートをしばしば訪ねているうちに、山本さんとも顔見知りになっていたという。たぶんそうした人間関係があって、バリケード内を自由に撮影することができたのだろうと納得した。
彼女が本格的に写真を撮り始めた1968年は、パリでは「5月革命」、チェコは「プラハの春」、米国ではキング牧師やロバート・ケネディが暗殺され、日本ではベトナム反戦運動が高揚していた。渡辺さんの母親も、エプロン姿で東京・王子の米軍野戦病院設置反対運動に参加していたというから、いまではちょっと想像がつかない時代かもしれない。
東大では医学部の処分問題に端を発して大学と学生との対立が深まり、各学部が次々と無期限ストに突入。巨額の使途不明金問題で揺れる日大では5月に、東大でも7月に全学共闘会議が結成される。本書に収録されている140点の写真は、68年11月の本郷正門前の様子から始まり、69年1月の安田講堂攻防戦を経て9月までの動きをまとめている。
当時撮影した200本ほどのフィルムは長年、渡辺さんの収蔵庫に眠っていたが、テレビ局の関係者から「団塊世代の特集番組を作りたいので写真を見せてほしい」と言われ、何十年ぶりかで日の目を見ることに。そして2007年に単行本になって、それを見た東大生から、大学祭で写真展をやりたいという話が持ち込まれ、その彼がのちに角川書店に入って、今回の文庫化を担当したというから、人のつながりが巡り巡っている。
本書には山本義隆さんも20ページを超える寄稿をしている。これがまたなかなか興味深い。とっくに70歳を超えているはずだが、まるでヘルメットをかぶってマイクを握り、演説をしているような感じなのだ。東大全共闘の淵源から、その活動の正当性、大学当局の欺瞞などを滔々と語り続けて倦むところがない。神童と言われた人だけあって、文章の明晰ぶりが際立つ。
とりわけ面白いのは、安田講堂を巡るくだりだ。東大当局が「安田講堂には劇薬などの危険物が大量に貯蔵されている」という見解をマスコミ向けに広報し、それをもとにマスコミは「爆薬のニトログリセリン」「青酸化合物」が持ち込まれているとキャンペーン、機動隊導入の布石が打たれたと見る。ところが実際には、それらはなかった。当時の「学内弘報」にも、「火炎ビンのみならず、ダイナマイトや、さらにニトロ系化合物などの持ち込みも噂され」と書かれていたが、のちに東大当局がまとめた『東大問題資料』からは、これらがこっそり削除され書き直されていると指摘。改竄、隠ぺいを弾劾する口調の激しさは、半世紀前のキャンパスにタイムスリップし、アジ演説を聞いているかのようで、今も変わらぬ意気軒昂ぶりを見せつける。この一文を読むだけで、当時を知らない読者も「あのころ」を肌で感じることができるのではないか。
全共闘運動に関する本はすでに本欄でいくつか紹介している。大野正道・筑波大名誉教授が逮捕・起訴の青春を回想した『東大駒場全共闘 エリートたちの回転木馬』(白順社)、全共闘運動の導火線となった67年の10・8羽田闘争で亡くなった京大生、山崎博昭さんを追悼した『かつて10・8羽田闘争があった』(合同フォレスト)、運動から派生した爆弾グループ、東アジア反日武装戦線の大道寺将司元死刑囚の『最終獄中通信』(河出書房新社)などだ。山本義隆さんの『近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書)や、フランス文学者の鈴木道彦さんの講演集『余白の声 文学・サルトル・在日』(閏月社)なども関連本と言えるかもしれない。
渡辺眸さんは本書の出版を記念して18日まで、神田神保町の「GALLERY KOGURE」で写真展を開催中だ。
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