ワインブームで、チーズへの関心も高まっている。J-castでもすでに2015年に「高級チーズ人気、じわじわ広がる」と紹介ずみだ。都心のデパートなどのチーズ売り場では、今や当たり前のように世界各国の珍しいチーズが並んでいる。それだけ熱心なチーズファンが増えているということだろう。本書『フロマジェが教える おいしいチーズの新常識』(世界文化社)もそうした本格的なファン向けの一冊だ。
著者のファビアン・デグレさんは1984年、フランスのル・マン生まれ。実家は祖父の代から続くチーズ販売業。子供のころからチーズが身近だった。ワインのソムリエと同じように、チーズに詳しいプロを「フロマジェ」というが、2015年にフランスで開かれたコンクールで「世界最優秀フロマジェ」に選ばれている。
こう書くと、ファビアンさんは本場フランス仕込みのチーズのエキスパートと思われるかもしれないが、実はちょっと違う。
フランスにいたころ、友達に日本好きがいて、アニメやゲーム、格闘技に関心を持つようになり自分でも空手や日本語を習った。高校を出てさらにパリの「国立東洋言語文化学院」で日本語と経済を学ぶ。できれば日本とフランスを結ぶ貿易の仕事をしたいと考えていたときに、パリで開かれていた農業祭で、今回の本の監修者で、日本でチーズ専門店「フェルミエ」を展開する本間るみ子さんと知り合った。
日本に行き、チーズにかかわる仕事も・・・「フェルミエ」で働くようになり、そこで改めてチーズを徹底的に勉強した。実際に売り場にも立った。最初はデパ地下、渋谷東急のフードショー店で接客から始めた。だんだん慣れて副店長、店長に。
日本語とチーズ、その両方を勉強する。最初は苦労した。ねばねば、もちもち、ふわふわなど日本語特有の擬態語がわからない。日本人の発するチーズの名前が、フランス語の発音と違うため聞き取れないことにも愕然とした。マニアの客はものすごく詳しいので、製造法の微細な違いなど、聞かれても答えられないこともあったという。「フランスのチーズ屋の息子が、日本で、日本語でチーズを勉強するなんて、本当に不思議です」。
「フェルミエ」の本間さんは、チーズ業界では国際的な有名人。フランスの農業祭で、日本人として初めてチーズ部門の審査員も務めた。世界各国のチーズ生産者を訪ね、ダイレクトに珍しいチーズを輸入していることで知られる。東京・愛宕の本店には、常時200種類ほどのフレッシュなチーズがストックされ、店内で食べることもできる。いわば日本中の高級チーズ好きの聖地。そこで14年から、ついにファビアンさんは店長になる。日本滞在は10年に及んだ。
本書は冒頭に、以上のようなファビアンさんの一代記がつづられ、そのあと、「マリアージュの技」「ファビアン流、新チーズガイド」「チーズレシピ」などの各論に入る。新しいチーズの選び方、もっとおいしくなるテイスティング術など、チーズ愛好家なら座右に置きたい一冊だ。世界文化社の本だけあって、写真も美しい。
チーズと酒の項では、日本酒が意外にチーズに合うこと、「日本のチーズ」の項では近年、日本でも多数のナチュラルチーズがつくられるようになっていることを紹介する。チーズは土地の環境や気候によって出来が変わる。フランスの物まねではなく、日本の風土に根差した日本独自のチーズを、というのがフランス生まれ、日本でフロマジェとして育ったファビアンさんの願いだ。
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