燕町駅のエキナカには神様がいる――。2015年に入ってすぐの頃、そんな噂が広がり始めた。しかし、広まるのが早い分だけ飽きられるのも早く、残ったのは、都市伝説めいた噂だけ。「神様」とは、時空を超えた存在として描かれているのかと思ったが、その正体は、燕町駅のエキナカで10年間も絵を描き続けている「中神」という男性だった。
本書『エキナカには神様がいる』(株式会社KADOKAWA、2015年)は、1日に数十万人が利用する燕町駅のエキナカを舞台に、人々の関わり合いから生まれる5つのドラマが描かれている。
「第一話 背中」「第二話 視線」「第三話 嘘」「第四話 思い出」「第五話 駅のスケッチ」の5つで構成され、1つの作品に登場する人物が、別作品にも現れるかたちをとっている。登場人物同士のつながりが、作品を追うごとに徐々に広がっていく。
自殺が頭をかすめるほど、疲労困憊した男性会社員。4年前に元彼から逃げてきたが、その元彼が再び現れて戸惑う花屋の店員。エキナカを1人きりで彷徨う小学生の男の子。詐欺被害に遭って間もなく、駅でスリに遭った高齢の女性。そんな彼らを見かけると、「中神」は居ても立ってもいられなくなる。「駅は、みんなが集まる場所だから」と、全力で助けに動く。
第五話は「中神」自身にスポットが当てられ、彼がなぜ絵を描き、駅での揉めごとを仲裁し続けてきたのか、その背景にある彼の父親への思いが描かれている。「中神」を中心に広がる人々の縁、思いやりの連鎖が、燕町駅全体に行き渡り、読み手にも温かい気持ちを感じさせてくれる。
本書は、「第10回エキナカ書店大賞」ノミネート作品。「エキナカ書店大賞」とは、JR東日本の駅中書店「ブックエキスプレス」の書店員が、「面白い」「お客様にも薦めたい」と思う本を持ち寄り、選考した本を表彰する文学賞。
著者の峰月皓は、1981年生まれ。代表作に『俺のコンビニ』『七人の王国』などがある。著者は本書のあとがきで、大人になって離れた地元の最寄り駅について、「いまでも心のどこかで『うちの駅』だと思っている気がします。そんなことを思いながら、読んでいただけたら幸いです」と記している。
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