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あいまいに別れた大切な人と、再会できたら

手のひらの音符

 「人と人との繋がりは、出逢いの一点はいつも明確なのに別れの一点はたいてい曖昧」

 「人と人が別れる時、それが最後になることをお互い知っている別れは、この世にどれくらいあるのだろう」

 本書『手のひらの音符』は、2014年1月に新潮社より単行本として刊行され、16年9月に文庫化された。本書を読むと、自分の中にひっそりとしまってある大切な人の記憶を、そっと手で触れられたような気持ちになる。親、兄弟姉妹、幼馴染、友人、恋人、好きだった人、先生など、もう会えなくても、記憶は自分の中にあり続け、今も力をもらっているのだと、改めて気づく。

 デザイナーの瀬尾水樹は、45歳、独身女性。服飾の仕事に意志と誇りを持って向き合っている。ところがある日、自社が服飾業から撤退することを知らされる。途方に暮れる水樹のもとに、中高の同級生だった憲吾から電話があり、遠子先生が入院したという。遠子先生は、高校卒業後に就職を考えていた水樹に、服飾学校への進学の道を示してくれた恩師。お見舞いのため京都へ帰省する最中、懐かしい記憶が次々と甦ってくる。

 水樹には幼馴染の3兄弟がいて、2番目の信也は水樹と同学年。両方の家庭が複雑な事情を抱えていて、小さな頃から苦労を経験し、2人は互いの力になり、想い合う関係だった。しかし、水樹が高校を卒業し、東京の専門学校に通い始めると、信也と連絡が途絶えた。その後の消息はわからぬまま、30年以上経った今も信也との別れは、ぼんやりとしていた。過去を回想する中、水樹は信也との再会を願うようになる。

 水樹と、水樹を取り巻く登場人物の1つ1つのエピソードに、引き込まれていく。作品全体を通して、穏やかな淡い色合いが漂っているが、その中に、シビアな家庭環境、病、死が描かれている。登場人物の感じる懐かしさ、辛さ、哀しさ、希望を、自分のこととして感じられる作品。

 著者の藤岡陽子は、1971年京都府生まれ。大学卒業後に報知新聞社にスポーツ記者として勤務。退社後、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。帰国後に看護専門学校を卒業し、看護師として働きながら小説を書き始める。2006年「結い言」で北日本文学賞選奨を受賞。09年『いつまでも白い羽根』(光文社)でデビュー。他に『トライアウト』『波風』(ともに光文社)、『おしょりん』(ポプラ社)、『テミスの休息』(祥伝社)などがある。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 手のひらの音符
  • 監修・編集・著者名藤岡 陽子 著
  • 出版社名株式会社新潮社
  • 出版年月日2016年9月 1日
  • 定価本体630円+税
  • 判型・ページ数文庫判・377ページ
  • ISBN9784101205618
 

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