本書『最低。』(株式会社KADOKAWA)の著者・紗倉まなさんは、工業高等専門学校に在学中の18歳のときにAV女優としてデビュー。その体験をもとに本書の1章「彩乃」編で、その事実が家族や学校にばれる「身バレ」の恐怖を切実に書いている。小説の中では釧路から東京の美容専門学校に通う女性が主人公となっている。
「あんたが何をしたいのかよくわからないのよ。まさかそれをやりに、東京に出てきたわけじゃないでしょ?」「私たちをこれ以上狂わせないでちょうだい! お願いだから」。母親や姉が悲痛にさけぶ。
あとがきによると、在学中にAV出演していることが学校中に知れ渡って、教師にほくろの位置や歯並びまで指摘され、「これはあなたですよね、いったいなにをしているんですか?」と詰問されたという。著者はひたすら別人説で否定し続けたが、まわりから浴びせられる好奇な視線に痛みを感じたそうだ。
AVに出演した女優が週刊誌のグラビアに載ることはあっても、自らのことばで何かを語ることはほとんどない。ましてや思いや体験を小説に書くことはなかったのでは。そういう意味では、男性にとって何が書かれているのか、興味があるというよりも「怖い」と思う人が多いだろう。
出てくる業界人や男のいいかげんさに比べて、女性のたくましさは見上げたものだ。家族に黙って活動を続ける彩乃。愛する男とともに上京した札幌・ススキノの女、桃子。夫のAVを見て出演を決意した専業主婦、美穂。AV出演歴のある母親を憎む少女、あやこ。4人の女優をめぐる連作短編小説だ。これを読むとAVを見るのがためらわれるようになるかもしれない。
紗倉さんは、このほかに小説『凹凸』(株式会社KADOKAWA)、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、スタイルブック『MANA』(サイゾー)があり、文筆でも活躍している。高専出身ということは、もともと勉強もできた人なのだろう。
本書は、2016年に刊行されたものを文庫化したもので、本書を原作とした映画「最低。」(瀬々敬久監督)は昨年(2017年)公開された。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?