ハインリッヒの法則というのがある。1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというものだ。航空機事故の世界ではおなじみ。日常の小さなトラブル例もきちんと報告し、さらに突き詰めて点検し、原因を調べて安全運航につなげる。
「ヒヤリ・ハットの法則」とも言われる。最近では航空業界だけでなく幅広く様々なジャンルで応用されているようだ。介護現場での新しい取り組みを紹介した本書『できることを取り戻す魔法の介護』(ポプラ社)でも登場する。
介護とは、高齢者や、身体あるいは知的障害がある人、認知症が進行している人たちをケアすること。何よりも大事なのは「安全確保」だ。足腰が弱くなってくると、とつぜん転んだり、倒れたりする可能性があるし、車いすの場合は、もっと注意が必要だ。だから介護する側は、いつも神経を張りつめながら、介護される人の状態を見守る。「ヒヤリ」「ハッと」を記憶し、まさかの重大事故が起きないように気配りすることが基本になる。
本書の執筆陣は、マンションで有名な長谷川工務店のグループ、長谷工シニアホールディングスの人たち。長谷工シニアでは全国に約40の老人ホームやグループホームを運営している。各施設では当然ながら入居者の生命と安全を守ることを第一にしている。
しかしながら、「ヒヤリ」「ハッと」だけでいいのか、余りも余裕がなさすぎるという思いがスタッフの間で積もり積もってきた。そこで登場した新しいコンンセプト、それが「にやりほっと」。入居者たちのちょっとした「笑顔」を探す試みだ。
車いすの入居者が、トイレで手すりにつかまり、自力で立ちあがることができた。そのとき「にやり」とした。スタッフのエプロンのほつれに気づいた入居者が、針と糸で手際よくぬってくれた。その時も「にやり」の笑顔が返ってきた。童謡を歌ったり、習字をしたり、レクレーションの最中に、そんな「にやり」「にこり」をしばしば目撃する。それはスタッフを「ほっと」させてくれる。
こうしてスタッフは、日々の仕事の中で「ヒヤリハッと」だけでなく「にやりほっと」も探しだし、記録するようになった。そして自分たちの活動を「にやりほっと探検隊」と自称するようになった。
一般に、介護関係の施設では、少しずつ状態が悪くなっていく入居者が多い。だから本人も家族も介護する側も、前向きな気持ちを維持するのが大変だ。「にやりほっと」を積み上げることで、少しでもそうした状況を変えることができるのではないか。本書では多数の事例を通して具体的に「にやりほっと」の貴重な体験を伝え、こうした試みが「介護の新たなスタンダード」になるのではないかと確信していると書いている。
介護される側が書いた話題の近著がある。『コータリンは要介護5』(朝日新聞出版)。主人公は、要介護5のエッセイスト神足裕司さん。この本の中でもスタッフは、神足さんが時折見せるニコッというほほ笑みが、仕事のやりがいになっていると明かしている。
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