本書『地方公立名門高校』(朝日新書)の著者おおたとしまささんの近著『ルポ東大女子』を先日紹介したばかりだ。東大のほか、北海道大学、東北大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学といった旧帝国大学と東京工業大学、一橋大学がいわゆる「難関大学」とされ、「旧帝一工(きゅうていいちこう)」という受験業界ワードもある。これに国立大学医学部医学科の合格者数を合わせた数が、高校の実力を表す数字とされ、高校・大学関係者が毎年注目している。毎年春になると、サンデー毎日と週刊朝日が合格者数を掲載し、ふだんの数倍を売り上げているという。高校OBの受験マニアも多いのだ。
教育ジャーナリストのおおたさんは、私立の中高一貫校が受験で優位なのは、東京、大阪など一部大都市圏のみの現象だとして、いわゆるご当地名門校から東大など難関校に入るのが地方にあっては王道だと説明する。各地に旧制一中があり、その文武両道のDNAは戦後、新制高校となり名前が変わっても脈々と受け継がれているというのだ。
具体的には、札幌南、仙台第一、浦和、新潟、金沢泉丘、藤島(福井)、静岡、旭丘(愛知)、岐阜、北野(大阪)、神戸、松山東、修猷館(福岡)、濟々黌(熊本)、鶴丸(鹿児島)の15校を取り上げ、その校風と取り組みを紹介している。
本書に登場しない旧制一中の系譜を受け継ぐ高校もおおむね各地で健闘しており、旧制一中以来のハビトゥス(習慣)が生きているという、おおたさんの主張はうなずける。
評論家の佐藤優さんが母校について書いた『埼玉県立浦和高校』(講談社現代新書)でも、佐藤さんは高校時代に備わった「人間力」がその後の人生を切り拓いてきたと証言している。
東大を出た官僚や政治家の不祥事が明らかになるたびに、どこの高校を出たかも話題になる。日本は「学歴社会」ではあるが実質的には「高校歴社会」でもあるのだ。すでに地方では明治以来の各地域の伝統があるので、いまさら「地方名門公立高校」がゆらぐことはめったにないが、受験制度の変遷により「没落」してしまった旧制一中もあるので油断はできない。各地の塾関係者に取材した最新情報も盛り込まれており、読み応えがある。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?