日本一忙しい「要介護5」だという。コラムニストの神足裕司(コウタリ・ユウジ)さん、60歳。仲間からは親しみを込めて「コータリン」と呼ばれている。
2011年9月3日、仕事先の広島から東京に戻る飛行機の中で、コータリンさんは倒れた。くも膜下出血だった。2度にわたる手術の末、奇跡的に一命は取りとめたものの、左半身に麻痺が残った。本書『コータリンは要介護5―車椅子の上から見た631日』(朝日新聞出版)は、そんなコータリンさんのリハビリ生活と、要介護になって見えてきた様々な思いをつづっている。
介護の経験がある人ならわかるが、「要介護5」というのは、介護ランクでいちばん大変な状態だ。自力で寝返りができず、食事、排泄、着脱などは介護者の全面的な介助が必要。いわゆる寝たきり状態だと推測できる。しかし、コータリンさんは頑張っている。リハビリもしているし、何よりも原稿を書いている。朝日新聞で16年4月4日から週1で「コータリンは要介護5」の連載を続けているのだ。本書は昨年末までの連載分を単行本としてまとめたものだ。
コータリンさんは広島県出身。慶応大学法学部在学中からライターを始め、84年に発表したイラストレーター渡辺和博さんとの共著『金魂巻』がベストセラーになった。タイトルを聞いて思い出す人も多いだろう。続いて漫画家・西原理恵子さんと92年から「週刊朝日」で連載した『恨ミシュラン』でさらに注目度が上がる。グルメ記事と言えばヨイショがあふれていた時代に、辛口が受けて、全106回を数える人気連載となった。その後も雑誌にとどまらず、テレビ、ラジオなど幅広い分野で活躍してきた。
ところが、「その日」は突然やってきた。羽田空港から大学病院に運ばれ、緊急手術を受けたが、1か月間、生死の間をさまよった。目が覚めると、頭も体も全く動かない。縛られたガリバーのようになってベッドに横たわっているだけ。目だけは見開いていたが、何が起きたのかも理解できない。約1年の入院生活を経て自宅療養を続けている。その後、がんにもなった。
要介護5の状態で、どうして原稿が書けるのか。本書によると、原稿は手書き。ところどころ文字が乱れる。それを妻の明子さんがパソコンで打つ。体調が良いときは800字を15分ほどで書くというが、一文字をひねり出すのに10分以上かかるときもある。
昔のことや人は覚えている。しかし、新しいことや人は忘れる。耳は普通に聞こえるし、聞くスピードにも問題はないが、「そうだね」と相槌を打とうと思っても言葉が出てこない。話せない状態が続いている。
「ボクの脳はどうかしている。もうわかりきっていることだが、自分で自分が、本当に嫌になる」
「入院中、このまま眠り続けられればどんなにいいだろうと思ったことがある」
「病気は人生を変えてしまう。自分だけでなく家族の生活さえも。本当に恐ろしいものだ」
「『疲れたなあ』とつぶやいたら、妻が『ずっと寝てたのに』と笑った。ボクは居眠り中でも、ずっと仕事をしている夢を見ていたのだ」
そういう切実なつぶやきが、本書のところどころにあって、胸を打つ。コータリンさんの周りには「チーム神足」ができているそうだ。約15人のスタッフが、介護を支えている。入院したころコ―タリンさんはずっと、無表情だったが、今では時折、ニコッとほほ笑む。それがチームの人にとってはたまらない。コ―タリンさんはチームの人気者なのだという。
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