米朝首脳会談の開催をトランプ米大統領に合意させたかと思うと、今度は26日(2018年3月)に中国の習近平国家主席と初の首脳会談を電撃的に行った、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。その動向に世界の注目が集まる中、『金正恩』と題した本が新潮社と文藝春秋から3月相次いで刊行された。
本書『金正恩』(新潮新書)の帯が、手短にその特徴を表しているので引用しよう。
「性格:粗暴、キレやすい、誇大妄想的 家族:母は元在日、兄は暗殺、妹を信頼 趣味:粛清、人事刷新、サプライズ視察 基本政策:国民は金王朝存続のために経済政策:南北統一すれば全てチャラ 好きなもの:核兵器と長距離弾道ミサイル」
著者の朴斗鎮氏は、朝鮮大学校経済学部教員などを経て、コリア国際研究所所長を務める北朝鮮ウォッチャー。首領絶対独裁体制の国なので、北朝鮮の研究はすべてを首領=金正恩に関連付けて分析しなければならないと説く。
金正恩本人の未熟な資質と母親が元在日であるため偶像化できないというコンプレックスが、背伸びした統治の背景にあるという。大規模な粛清と人事権の乱用の結果、党も軍も弱体化し、党組織指導部という党組織が巨大な権限を握るようになったと見ている。
経済では私経済が拡大し、「金主(トンジュ)」という富裕層が増え、貧富の格差はさらに拡大したという。北朝鮮で使用される携帯電話は200万台を超え、韓国や世界の情報はかなり国民にも伝わるようになり、意識も変化しているそうだ。著者は多くの脱北者にも取材しており、住民の意識は「お金」に集中し、指導者への忠誠心は薄れているという。この変化を統治者=金正恩は恐れ、だからこそ核ミサイルの完成を焦っているとも。
米朝の軍事衝突について、北朝鮮はアメリカと全面戦争する力はないと分析する。だからこそ軍事オプションを阻止するカードとして、韓国の文在寅政権を利用し始めたとして著者は警告、南北首脳会談、米朝首脳会談への期待や幻想を打ち砕く。
一方、文藝春秋から出た『金正恩』の著者は東京新聞記者の五味洋治氏。金正恩の異母兄で、2017年に暗殺された金正男氏とも接触し、北朝鮮の内情にも詳しいことで知られる。ジャーナリスティックな筆致が好きな人には、そちらを勧める。五味氏は昨年末には『朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか』(創元社)を出している。
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