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「英雄〇〇を好む」はフランス生まれの言葉だった?

大統領府から読むフランス300年史

 フランス大統領官邸であるエリゼ宮は貴族の館として1722年に建設され、社交や政治の舞台となったのちに大統領官邸として機能するようになり、1879年1月に法的に「共和国大統領府」として規定された。「大統領府から読むフランス300年史」(祥伝社刊)は、エリゼ宮建設時まで遡って数々の逸話を掘り起し、同宮殿が大統領府となる以前からフランスの権力争いの中心だったことを教えてくれる。

 2代目住人であるルイ15世の愛人、ポンパドール夫人はその立場を利用し権勢を振るったことで知られるが、贅を凝らした暮らしぶりもまたおなじみで、その様子は「ポンパドールの間」で今に伝えられている。後のドゴール大統領は、夫人に対して嫌悪する気持ちがありエリゼ宮も嫌っていたという。ドゴール氏はともかく、大統領官邸となってから愛人同伴での入居もあるなど、あまり知られていないエピソードも豊富に盛り込まれている。

24歳年上姉さんファースト・レディの気配り

 著者の山口昌子(しょうこ)さんは1990年から2011年まで21年間、産経新聞パリ支局長を務め、その後もパリで取材活動を続けている。本書は06年6月から11月まで100回に渡り同紙に連載した「エリゼ宮物語」がベース。同連載はフランスの著名歴史作家や多数の宮殿関係者らに取材して書きあげた。本書の出版にあたり、17年5月に公邸に入居したマクロン大統領まで、その後の新たな住人について加筆した。

 エリゼ宮は、パリ市内の中心部、凱旋門から東へ延びるシャンゼリゼ通りを進み、コンコルド広場に突き当たる手前、北側に広がるヌーベル・フランス庭園を東西に分けるマリニー通りを入った先の右手にある。警戒は厳重で近年はそれが一層強化されており塀の周囲の歩道にも容易に立ち入れない。

 現在のエリゼ宮の主はマクロン大統領。在仏歴が長い著者は「前任者と後任者の関係は常に微妙だが、フランスの権力の象徴、エリゼ宮の住人の場合は特に悲喜こもごも、さまざまなドラマが展開されてきた」と述べる。マクロン氏の場合も、前任者のオランド氏との間で微妙な駆け引きがあったという。

 マクロン氏は「議員経験なし」あるいは「ナポレオン3世以来の最年少元首」など「初」とか「~以来」というフレーズがついてまわる大統領で、これらにさらに、エリゼ宮にとっても影響がある「シラク大統領以来」というのがあり、それは本格的な「ファースト・レディ」の復活だった。24歳年上で3人の子を連れての再婚だったことが話題になったブリジット夫人だ。

 オランド氏には大統領就任のときから事実婚の相手である週刊誌記者の女性がいてエリゼ宮で暮らしていたが、その後、オランド氏と女優の密会が明らかになり同居人の女性は公邸を引き払った。オランド氏は退任する際の引き継ぎ式には一人で臨み、マクロン氏のブリジット夫人は独身のオランド氏に気配りし夫とは別に公邸入り。新大統領が一人で、こちらも一人で去る前任者を見送った。

オランド、サルコジ両氏の伴侶めぐる多忙

 オランド氏はその5年前、立場が替わって、サルコジ元大統領夫妻を見送ったのだが、このときの態度が「非礼」と指摘され、自らも反省と後悔の口にしていたという。パートナーの女性とサルコジ夫妻を見送ったオランド氏だが、夫妻が車に乗るのを見届けず、さっさとその場を去ってしまったのだ。大統領としての「最初の失点」をはやくもチェックされたという。「サルコジが前任者のシラクを車まで見送り、車がエリゼ宮の門を出ていくまで、感慨深げにジッと見守っていた姿とはあまりも対照的だった」と著者は述べている。

 しかし、サルコジ氏も「ファースト・レディ」ということに関してはエリゼ宮にドタバタをもたらした。大統領に当選し公邸入りしたときには、ともに再婚であるセシリア夫人と、夫妻の息子、それぞれの連れ子2人ずつの計5人の構成。大統領としては初の「再建家族」として注目された。ところが、夫妻は数か月後に離婚しサルコジ氏はスーパーモデルの女性と再婚し、エリゼ宮で離婚、結婚した、これまた、初の大統領になったものだ。

 シラク氏の退任から、サルコジ、オランド両氏の就任と退任を経て、マクロン氏の就任まで、4代の大統領の去就は最近10年間のできごと。エリゼ宮が建設されてからは、その30倍近いスパンの歴史があり、かかわる人物ははるかに多彩だ。時代ごとのキーパーソンをとらえながら、エリゼ宮を定点にフランスが大国となる軌跡を追いながらフランス人の生態にも観察眼が行き届いているという点では類書がなく、同国現代史の側面を学び知るには最適な一冊。

  • 書名 大統領府から読むフランス300年史
  • サブタイトルエリゼ宮の権力亡者たち
  • 監修・編集・著者名山口昌子 著
  • 出版社名祥伝社
  • 出版年月日2017年10月12日
  • 定価本体670円+税
  • 判型・ページ数文庫・318ページ
  • ISBN9784396317218
 

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