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人類が人類でなくなる日 ゴリラ学者が見た人類の過去・現在・未来

N.S.

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共感革命

 『共感革命』(河出書房新社)は、ゴリラ学者として知られ、京都大学総長にもなった山極壽一さんが、ゴリラなどの類人猿から人類への「進化」の歴史をたどり、現代の人類の文明がいま、どこに向かおうとしているのかを解き明かした本である。

 タイトルの「共感革命」は山極さんの名づけといってよく、人類が言葉を持ったことで「認知革命」が起きたことが人類の飛躍につながったという定説に対して、その前に人類に起きた「共感」という行為こそが、人類最大の革命だったという考えに基づいている。

 問題は、人類の「共感」する能力が、現在の世界を作ったと同時に、その世界を破壊しかねない危機を招いているということだ。

『共感革命』山極壽一 著(河出書房新社)
『共感革命』山極壽一 著(河出書房新社)

サルと類人猿の違い

 そもそもサル(猿)と類人猿の違いを突き詰めて考えたことのある日本人は少ないのではないか。英語では両者をmonkeyとapeと明確に区別している。日本で『猿の惑星』と題されて大ヒットした人気映画の原題は"PLANET OF THE APE"だったように、日本人はあまり両者を区別していない。

 ゴリラ学者であるだけに、山極さんがゴリラやチンパンジーといった類人猿の生態について、ニホンザルなどのサルと比べた記述は、非常に興味深い。食べ物をどう扱い、生殖をどう位置付けるかなど、サルから類人猿、そして現代人の日常へとつながる流れは、やはり我々の祖先と彼らの祖先が同一だったことを確信させる。

 そうしたなかで本書では、人類は言葉を獲得する前に歌や踊りでコミュニケーションをしていたはずで、その期間は言葉を話すようになってから今までよりもずっと長かったという見方をとる。 また、人類が地球に生まれた時から「暴力的だった」という仮説が、いかに偏見に満ちた見方で、現在の学説ではほぼ否定されているにもかかわらず、一般的にはまだ常識のように広まっている謎についても解き明かしていく。

 ホッブズの『リヴァイアサン』が描き出す初期人類の闘争状態という観念や、ダーウィンの進化論がはらんでいる問題点に対しても、京都学派が異を唱えてきた流れを踏まえ、自然界と人類のかかわり方を論じる叙述には新鮮さを覚える人も多いだろう。

神、国家、資本主義という虚構

 山極さんは、初期の人類の共感力や社交力が、その後の人類の定住や「神」の発明に結び付き、そして国家と戦争、さらには資本主義にまでつながっていく過程をひとつひとつたどっていく。そのいずれも人類が「虚構」を必要としたからだったという。

 こう書いていくと、人類史のおさらいのような本だと思われるかもしれないが、山極さんの眼は、しっかりと現代にも据えられている。ウクライナを含めた現代の戦争の起源を「共感」から分析したかと思えば、メタバースとAI(人工知能)が同時に爆発的な広がりを見せていることが偶然ではないことにも筆は及ぶ。

 また、まじめに考えられている月面などの宇宙空間への人類の定住計画について、現代の科学技術を使えば可能だ、としつつ、「そのとき、人類は人類でなくなっていると思う」と予測する。

 地球という環境の中で生まれ、地球とともに変化し続けた生き物が、地球以外の環境で生きていくためには、地球上とは違う何かを獲得する必要があるからだというのだ。

 人類は、ジャングルの木から降り、サバンナを走り、地球上の様々な土地に移って自分の住みたいように環境を変えて生きてきた。その初めには、共感力があり、言葉の誕生がそれを加速した。しかし、その結果、人類は地球環境を限界点近くまで変えてしまった。

 人類はこの後も、共感という力で地球環境という問題を乗り越えることができるのか。それとも地球外の世界を目指すことになるのか。はたまた、メタバースやデジタル空間でバーチャルに生き残ることを選択するのか。

 21世紀を生きていくわれわれ人類とは何かを考えるうえで欠かせない一冊になるはずだ。

■山極壽一さんのプロフィール
やまぎわ・じゅいち/1952年、東京都生れ。霊長類学者。京都大学理学部卒、同大学院で博士号取得。京都大学霊長類研究所などを経て同大学教授、京都大学総長。2021年より総合地球環境学研究所所長。『ゴリラ』『暴力はどこからきたか』など著書多数。





 


  • 書名 共感革命
  • サブタイトル社交する人類の進化と未来
  • 監修・編集・著者名山極 壽一 著
  • 出版社名河出書房新社
  • 出版年月日2023年10月24日
  • 定価968円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・224ページ
  • ISBN9784309631691

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