立っているだけで汗が噴き出してくる蒸し暑い夏。この暑さを、文豪はどう表現した?
2023年8月8日に発売された『文豪のことば探し辞典』(三省堂)は、近代の文豪が使った言葉をまとめた一冊。漢籍の知識が背景にある見慣れない言葉や、現代と同じ語でも違う意味を持った言葉などが約1400語収録されている。本書から、夏にぴったりの言葉を探してみよう。
本書によると、谷崎潤一郎の随筆『青春物語』に「油照り(あぶらでり)」という言葉がある。実際に使われている文章を見てみよう。
「京都の初夏の頃にしばしばある、陰気な雨雲が蔽(おお)いかぶさっている間から日が油照りに照りつけて、じっとしていても顔や体がぬらぬら粘って来るような、そよとの風もない、蒸し暑い、重苦しい日」
(青空文庫『青春物語』より、旧仮名遣いを現代仮名遣いに変換)
現代の私たちにとっても共感できる表現だ。本書では、「油照り」は「薄曇りで風がなくじりじりと蒸し暑い夏の天候」と解説されている。
さらに、「夏、朝のうちの涼しいとき」を表す言葉も。樋口一葉は『たけくらべ』で「朝涼(あさすず)」という言葉を使っている。一日「油照り」に耐えた翌朝、「朝涼」を感じる......なんていう風流なシーンが、今年の夏もあったのではないだろうか。
他にも、雲煙飛道(うんえんひどう・夏目漱石『草枕』)、暁角(ぎょうかく・中島敦『山月記』)、済勝の具(せいしょうのぐ・森鷗外『渋江抽斎』)、秋毫(しゅうごう・福沢諭吉『学問ノススメ』)など、誰もが知る文豪のなかなか知られていない言葉を、「情景」「人事・事物」「動植物」「情感」「活動」「様態・様子」「論理・抽象」の7ジャンルに分けて掲載している。
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