「年を取る」と聞くと、容姿や気力・体力が衰えて、頭も体もカタくなる。そんなネガティブなイメージが浮かぶ。一方で、山あり谷ありの人生を乗り越えていくことで、知識や経験、しなやかさを身につけたり、欲や執着、「ねばならない」思考を手放し身軽になったり、というプラスの一面も。そこで今回は、「年を取るのも悪くないな」と思える本を、編集部の面々が選書した。
『エリザベスの友達』
介護ホームに暮らす97歳の初音さんは、名前を聞かれると「エリザベス」と答える。彼女の心は、華やかな天津の日本租界に生きていた。
認知症を患うと、最近の記憶があいまいに、古い記憶が鮮明になるという。認知症になったら今までわかっていたことがわからなくなるのが怖いと思っていたが、この小説を読んで、人生で一番楽しかった頃にタイムスリップできるならロマンチックでいいなと思えた。もちろん認知症のすべてがそうではなく、苦労もたくさんあるだろうけれど、いつか老いていくことに希望を持たせてくれた作品。(H)
『軽く扱われない話し方』
20代のころ、仕事で年齢を理由に「ナメられる」ことが多々あった。「早く年を取りたい」と悩んでいた時にこの本と出合い、なんとかナメられない男になろうとした。
30歳を超え、上司や年齢が上の取引先の方、はたまた居酒屋で隣に座ったおっちゃんと会話をすると、気軽に話せる関係になるには、少しくらいナメられるのも悪くないのでは?と思えるようになった。皮肉なもんです......。(O)
『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』
1988年刊行、1993年文庫化。手元にあるのは2010年第34刷。当時の私は退職・結婚したばかりで、どこの学生でも、どこの社員でもない状態に慣れておらず、とにかく不安だった。
宇野千代さん(1897―1996)は、波乱万丈で恋多き人生(4度結婚)を送った。人間には「行動型」と「熟慮型」という2つの型があり、自身は「行動型の中でも一番の行動型」で、「速力のある行動ほど、『生きていた』と言う感覚が強いのです」と書いている。本書は刺激的で情熱的で、「熟慮型」の私の座右の書になった。
「私には年齢と言う意識がなかった。若いとか、年をとっているかと言う意識がなかった。鏡の中に見る現在が現在であった。その現在に見合う行動、と言うものさえ、私にはなかった。私のいまいるところが、現在であった。」
あっという間に40歳になり、あとは坂を下るだけと若干諦めモードになる日もあったが、あらためて読み返してみるととんでもなかった。人生に消極的になっている場合ではなかった。なんて最強で最高の生き方だろうと思う。(M)
『恋は雨上がりのように』
45歳のファミレスのおじさん店長に17歳の女子高生が恋をするという、なんとも夢に溢れた、だけども妙に現実的なストーリーが胸を打つマンガ。30代半ばの私がこの店長の年齢になるまで10年かかるが、こんなことがあるなら、年を取るのも悪くないんだろうなと想像してしまう。(既婚者としては問題発言かもしれないが...)
2018年には小松菜奈さんと大泉洋さん主演で実写映画化もされたが、原作の雰囲気そのままで、こちらもおすすめ。(O)
『マジカルグランマ』
70代の正子は元女優で、映画監督との結婚を機に引退したが、ひょんなことから「おばあちゃん」女優として復帰。注目を浴びるも、夫が急死し、葬式で「理想のおばあちゃん=マジカルグランマ」らしからぬ発言をしたことから、大バッシングを浴びる。収入が途絶え、やむなく土地を売ろうとしたが、家の解体費用に1千万円かかることがわかり――。第161回直木賞候補作にもなったエンタメ作品。
「みんなから好かれるかわいいおばあちゃん」像をかなぐり捨てて、なりふり構わずやりたいことをやる正子の姿に勇気をもらえる。スカッとするだけでなく、自分の中の思い込みや差別意識に気づかされる。年を取ると頑固になるというが、多様な価値観を受け入れる懐の深さはまさに年の功。正子を取り巻く登場人物たちも味わい深い。(N)
『永い言い訳』
交通事故で妻が他界したものの悲しみを表せない小説家が、同じ事故で命を落とした妻の親友の遺族と交流を深める様子を描く小説。今回、改めて読み直したが、重たい内容なのに不思議な没入感があり、気が付くと半日かからず読み切ってしまった。
この作品は、ぜひ映画で観てほしい。主人公を演じる本木雅弘さんが本当にカッコいい。現在57歳、出演時はアラフィフなのだが、渋すぎるっ! 叶わぬ夢だが、自分が57歳になり、モックンのような渋さを身につけられたら、「歳を重ねて良かった」と心から思えるのではないかと思う。(O)
『老人をなめるな』
この本の書評を書くために読んだのだが、読んでいくうちに、「そうだそうだ」という声が自分の中で聞こえてきたのを思い出し、あらためて選んだ。執筆時86歳の下重さんが言いたい放題に世間にたいしてまき散らす毒舌は、まさに「意地悪ばあさん」というのがピッタリくるのだが、決して嫌味に聞こえず、むしろ爽快感が残った。いずれにしろ、自分は、まだ言いたいことはすべて言ってないなと思いながら、80歳を超えたら言いたいことを言って生きてやろう、と密かな野心を燃やさせてくれた一冊。(S)
BOOKウオッチの書評はこちら↓
『終わった人』
いずれくる定年、退社というサラリーマンにとっては初の経験の「後」の人生を、ある意味でリアルな残酷さと滑稽さで描いた小説。定年小説の定番ともいえ、ドラマ化もされた。長くこういう本を読む気にはなれなかったが、書店で文庫化された表紙のタイトルを見て、思わず手に取った記憶がある。定年後もそれなりに山あり谷あり、恋のようなものもあり、決して「終わった」感じがしない主人公の人生がはじまるのだが、現役時代にくらべれば、やはり何かは終わっているし、過去には戻れない。むしろ、何かを終わらせることでしか、新しいものを始めることはできない、ということをタイトルは言いたかったのか、と納得した。その後の人生の選択肢を増やしてくれた気がする本でもある。(S)
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?