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ドイツにはない?「身内の恥」という感覚。「ふがいないきょうだい」問題に迫る

Mori

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ふがいないきょうだいに困ってる

 40~50代になっても自立せず実家に寄生している、お金を無心してくる、暴言を吐く――。そんな困ったきょうだいに悩まされている人々を取材し、一冊の本にまとめたエッセイストの吉田潮さん。5月に発売された『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)では、自らの体験談を含めた13の事例とともに、専門家のアドバイスを紹介している。

 日本では「身内の恥」として家庭内で問題を収めようとしがちだが、ほかの国ではどうなのか。2023年6月22日、東京・下北沢の「本屋B&B」で行われた出版記念イベントでは、吉田さんとドイツ出身の作家、サンドラ・ヘフェリンさんが、日本とドイツの家族観やきょうだい観について語り合った。もともと友人同士の2人。この日は吉田さんがリードしながら、ざっくばらんな女子トークが繰り広げられた。

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「長男優先主義」は日本特有?

 今回の取材では、「ふがいない兄」と、そんな兄や親から「頼られる妹」の組み合わせが多かったと話す吉田さん。「長男だから」と大事に育てられ、大人になっても自立できない兄に対し、子どものころから「女の子だから」と扱いに差をつけられてきた妹がモヤモヤしている、というケースだ。吉田さんは「きょうだい問題の背景には、日本特有の長男優先主義があるんじゃないか」と指摘する。

 「きょうだい間の性差別みたいなものは、ドイツにもある?」と吉田さんが問うと、「性別は関係ないですね。そもそも戸籍がないので、長男・次男という生まれ順にも意味がなくて、親にとってはみんな同じ"子ども"です」とサンドラさん。

 親子の関係もドライだ。ドイツでは、子どもは18歳になったら家を出るのが一般的で、「成人しても実家暮らしで親が生活の面倒を見る」という状況は「考えられない」という。もちろん、麻薬や万引きをやめられないなどの病気であれば、適切な治療を受けさせるなど家族のサポートが必要だという意見もあるが、基本的には当人の問題であり、「家族だから」「きょうだいだから」支えなくてはならない、という論理とは異なる。

「弟は刑務所にいます」への反応に温度差

 さらに、家庭内の問題の捉え方にも、日本とドイツでは温度差を感じるとサンドラさんは言う。

 麻薬や万引きと聞くと、日本人は「きょうだいに犯罪者がいるなんて、他人様にはとても言えない」と考えるが、ドイツでは「よくあること」として比較的ライトに受け止められているようだ。

「ドイツでも家族のトラブルはいっぱいあるけど、多分みんな、そんなに恥ずかしい話だとは思っていないんですよ。近所の人と雑談しながら、家庭のディープな内情をべらべら話したりする。聞いたほうも、あらそうなのね、うちもいろいろありますよ、みたいな感じで、あまり驚かれることはないですし。」

 サンドラさんは日本で「温度差」を感じたエピソードも披露した。

「以前、日本語が話せるドイツ人女性と、日本人の友人数名で食事に行った時、『ご家族はお元気ですか?』と聞かれた彼女が、『兄はドイツで医者をしています。弟は麻薬で捕まって刑務所にいます。両親は元気です』と答えたら、みんな目が点になっちゃって......。もしドイツで同じ話をしたら、自然な会話の流れで『面会には行ってる?』と聞かれたり、いろいろ教えてくれたりもするので、彼女としては普通に答えたつもりだったんだけど、その時はもうみんな無言(笑)。そんなことまで言っちゃう?って感じでした。」

 その話を聞き、「そこにも、ふがいないきょうだい問題から脱するヒントがある気がする」と吉田さん。「日本では世間体を気にして事実を隠すか、弟の存在すら"なかったこと"にするかもしれないけど、家族の話をもっとオープンにできたら、"ふがいない話"が、ふがいなくなくなるのかもしれないですね」。

クリスマスに家族間殺人が増える?

 一方で、日本ほど家族に縛られることも、世間体を気にすることも少なく、ドライに見えるドイツ人だが、「クリスマスは日本の正月よりハード。ひとつの病だと思ってる」とサンドラさんは言う。

 ドイツでは、クリスマスは「どんなに家族仲が悪くても、一緒に過ごさなくちゃならないイベント」だ。24日の晩には家族そろって白いソーセージを食べ、25日には祖父母の家に顔を出し、26日にはいとこなど親戚に会いに行くというしきたりがある。おまけにハグは必須で、もらったプレゼントは目の前で開けるのがマナー。大嫌いだからこそ普段、顔を合わせない相手にハグをし、プレゼントを見て「うわぁ、素敵!」と大げさに喜んでみせなくてはならない苦痛は想像に難くない。「クリスマスには家族間の殺傷事件が増えるという物騒な統計があるくらい」とは、笑えないジョークだ。

 日本での生活が長いサンドラさんが、ドイツの知り合いに「クリスマスは友達とカラオケに行った」などとうっかり口を滑らせれば、「それはお気の毒に...」とマウントをとられるので、うかつなことは言えないという。赤の他人に「弟が刑務所にいる」という話はできるのに、「クリスマスを友達と過ごした」とは言いづらいなんて、日本人からすれば不思議だが、ドイツにはドイツの「世間体」があることも分かった。ただ、サンドラさんによると「ドイツの世間体はクリスマスの3日間さえ気にしていればOK」だそうだ。

 最後に、「サンドラの話を聞いて、(きょうだいのことを)"ふがいない"と思っている側の意識を少し変えるのもアリかなと思いました」と言う吉田さんに、「そうですね。家族といえど自分じゃないんだから、ある程度切り離して考えるのも必要かも」とサンドラさん。当事者にとっては簡単に割り切れる問題ではないが、多様な価値観があると知るだけでも、「きょうだいだから」「家族だから」という呪縛から逃れるきっかけになるだろう。また、日本の「家族礼賛」文化の中で育った人が、きょうだい問題を乗り越えるためのヒントは、吉田さんの書籍にも書かれている。BOOKウォッチで行った著者インタビューもあわせて参考にしていただきたい。

<プロフィール>

■吉田潮さん
よしだ・うしお/千葉県出身。テレビドラマ評を中心に、新聞・雑誌などで執筆。セックス・離婚・不妊・介護・マンション理事会など、身の回り半径3メートルにまつわる事象はすべてネタにする。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』(ベストセラーズ)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)など。

■サンドラ・ヘフェリンさん
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴25年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)、「ほんとうの多様性についての話をしよう」(旬報社)など。7月に新著「ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方」(自由国民社)発売予定。


※画像提供:光文社


  • 書名 ふがいないきょうだいに困ってる
  • サブタイトル「距離を置きたい」「縁を切りたい」家族の悩み
  • 監修・編集・著者名吉田潮 著
  • 出版社名光文社
  • 出版年月日2023年5月24日
  • 定価1,870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・256ページ
  • ISBN9784334953799

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