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僧の淫欲を断つ「逆ポルノ」とは? 酒井順子の京都ガイドが面白い!

女人京都

「京都は、誰もが惚れてしまう美女のような街である」

 そう語るのは、エッセイストの酒井順子さん。鋭い洞察力とユーモア、歯切れのよい文章が持ち味で、『負け犬の遠吠え』など女性の生き方をテーマとしたエッセイの名手だ。

 新著『女人京都』(小学館)は、京都に惚れこみ何度も通った酒井さんが、独自の視点で案内する散策エッセイ&ガイド。平安時代から明治時代まで、京都に生きた様々な女性たちの面影を訪ね歩いている。

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『女人京都』(小学館)

嵯峨天皇のお后の遺体を路上に放置?!

 歴史上の「美女」として多くの人が真っ先に思い浮かべるのは平安時代の歌人、小野小町だろう。生没年は不詳で実在したかどうかも定かではないが、日本各地に伝説が残っている。酒井さんはそんな小町と同時代に生きた美しく聡明な女性、壇林皇后(橘嘉智子)とを対比させ、興味深い考察をしている。

 嵯峨天皇の妻、壇林皇后ゆかりの地、「帷子(かたびら)ノ辻」を訪れた酒井さん。現在は何の変哲もない交差点になっているその場所はなんと、壇林皇后の遺体が放置された地と伝えられている。

 そんな高貴な女性の遺体が道端に捨てられるとは、よほどの大罪を犯したのかと思いきや、それは壇林皇后の遺言だったという。信仰の厚い彼女は自身の遺体が朽ちていく様を人々に見せることによって、「どんなに美しくても、死んでしまえば腐り果てて、やがて骨となる」ことを伝え、煩悩を鎮め仏道への誘いとしたのだとか。「美しさは罪」ということだろうか。

 酒井さんも「美人の考えることはよくわからん」と首を傾げつつ、翌日には六波羅にある西福寺へ。目当ては壇林皇后の姿が描かれた「九相図(くそうず)」だったが、当日は公開されておらず断念した。

 ちなみに九相図とは仏教の修行に使われる図で、女性の死体が朽ちていく9段階の様子が描かれている。「どんな美人も死んだら腐る」事実をよくよく観ることで、女性に対する淫欲を遠ざけるのだそうだ。

 壇林皇后の九相図を見ることは叶わなかった酒井さんだが、その後、図らずも小野小町の九相図と巡り合う。

 <亡くなった直後はまだ美しい状態の"ボディー"が、次第に膨張し、腐敗し、動物に食べられ、骨となってばらばらに散っていく。......という九つの様が、拝見した九相図には生々しく描かれていました。>
(本文より)
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小野小町をモデルにしたとされる「九相図」の1つ。江戸時代には小野小町や壇林皇后をモデルとした九相図が盛んに描かれた。
Kusōzu: the death of a noble lady and the decay of her body. Watercolours. Wellcome Collection. Attribution 4.0 International (CC BY 4.0)

 グロテスクな絵に「汗も引いていくかのよう」と引き気味の酒井さん。しかしここからの考察が面白い。

 <九相図のモデルとなったのが壇林皇后や小野小町という歴史上の美女であるのも、これが男性の欲望を萎えさせるためにある「逆AV」「逆ポルノ」だとしたら、美女である必要性が理解できます。生前の美しさと死後の醜さのギャップが大きいほど、修行の"おかず"には効果的なのですから。>
(本文より)

 さすがの洞察力だが、ここで終わらないのが酒井さんだ。信仰心の厚い壇林皇后と、言い寄ってくる男を冷たくあしらっていた小町とでは、モデルになった背景が異なるのではないかと想像を巡らせる。な~るほど!と膝を叩きたくなるその結論は、ぜひ本書で確かめてほしい。

 小町や壇林皇后ように容貌が美しい女性だけでなく、文芸や歌舞音曲の才、人々をまとめその上に立つリーダーシップなど、さまざまな美点を持つ女性たちが活躍してきた京都には、彼女たちに関係する史跡が多く残っている。本書では、光明皇后にはじまり、紫式部や清少納言、淀君、和宮、九条武子など43人を取り上げている。

 <京都を歩いていると、歴史に生きた女性達の息吹を、ふと感じる瞬間があります。歴史上の多くの女性の人生が記録に残らず、〝なかったこと〟にされがちな日本において、ほんのわずかなその気配は、私達に共感や同情や憧憬等、様々な感情をもたらしてくれるのでした。
 そして私は本書において、そんな女性達と縁の深い地をできる限り時系列順に巡ることによって、彼女達が生きた「点」を、「線」としてつなげてみたい、と思っています。そうすることによって、線の先には今を生きる私達が連なることになるのではないか、と。>
(本文より)
 

 カバー裏には京都散策に便利な地図が描かれている。情緒とユーモアたっぷり、かつ実用的な酒井流「点と線」。古都に伝わる女性たちのロマンとミステリーを探る旅へ、いざ!

■酒井順子さんプロフィール
さかい・じゅんこ/1966年東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを執筆。大学卒業後、広告会社勤務を経て、エッセイ執筆に専念。2004年『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞をダブル受賞。女性の生き方、古典、旅、文学など幅広く執筆。



  • 書名 女人京都
  • 監修・編集・著者名酒井順子 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2022年9月28日
  • 定価1760円(税込)
  • 判型・ページ数小B6版・320ページ
  • ISBN9784093888769

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