「人が眉毛を抜くときの顔ってなんともいえないよね」。これは、清少納言が『枕草子』に書いたコメント。1000年以上前の人なのに、まるで今隣でぼそっとつぶやいているようだ。「うわー、わかる......」なんて、気心知れた友達のように返事をしたくなる。
あなたも学生時代、教科書に載っている『枕草子』、たとえば「にくきもの。急ぐことあるをりに来て、長言するまらうと。(しゃくなもの。急いでいるときに来て、長話をする客。)」などという一節に「わかる!」と親近感を覚えたことがないだろうか。あるいは、紫式部の『源氏物語』に、恋愛ドラマを見ているようにときめいたり。『更級日記』を書いた菅原孝標女の、熱烈な本好きの姿に共感したり......。
エッセイスト・酒井順子さんの『平安ガールフレンズ』(KADOKAWA)は、そんな平安女子たちの、まるで現代の女友達にいそうな一面を、たっぷりと紹介する1冊だ。
「春は明け方がいいね」とさっぱり言い切るところからもわかるように、清少納言は好き嫌いをはっきりと書く人物。「説教の講師は、顔よき。」という一文から始まる段では、こんな話をしている。
「ありがたいお経を説く僧は、顔が良くなくてはダメ」
「じっと見つめてこそ、教えの尊さもわかろうというもの。よそ見をすればせっかくの教えもすぐ忘れてしまうのだから、仏罰が当たりそうに思える」
まるで「先生がイケメンだったら真面目に授業聞くのになー!」と言う女子高校生のよう。しかも当時、仏教の行事は今でいうライブやフェスのようなものだったそうだ。そんな特別な場でお経をあげる僧の見た目は、彼女たちにとってよほど重要だったに違いない。もちろん僧の外見に集中力が左右されるのは褒められた話ではないが、だからこそよりいっそう、女同士で「わかるわかる、イケメンのほうがいいよね」と盛り上がれるのだろう。
清少納言は好き嫌いがはっきりしており、しかも知性があって、和歌や贈り物に対して気の利いた返事ができた。そのおかげで女性にも男性にも人気があり、鳥の声を聴きに行くときや月を眺めるときは、同僚の女性たちとぞろぞろ連れ立って行動していたそうだ。そんな、今でいう"パリピ"的なノリを持ち合わせていた清少納言。そんな彼女を快く思っていない人物がいた。それが、『源氏物語』の作者・紫式部だ。
清少納言と性が合わなかった紫式部。外向的な清少納言に対して、紫式部は内向的で、「ねっとり」した性格だったそうだ。日本文学史に燦然と残る大長編を書き残した、紫式部の人物像とは......?
他にも、"サレ妻"の本音を赤裸々に語った『蜻蛉日記』の著者・藤原道綱母、熱狂的な源氏物語オタクでちょっと"中二病"な菅原孝標女、才能があって男性にもモテるのになぜか"不幸体質"な和泉式部が紹介されている。もしも彼女たちが令和にいたら、あなたは誰と友達になれそう?
■酒井順子(さかい・じゅんこ)さんプロフィール
1966年東京生まれ。『負け犬の遠吠え』で第4回婦人公論文芸賞と第20回講談社エッセイ賞をダブル受賞。『下に見る人』『子の無い人生』(以上、角川文庫)、『源氏姉妹』(新潮社)、『紫式部の欲望』(集英社文庫)、『枕草子REMIX』(新潮文庫)ほか著書多数。河出書房新社「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」シリーズで、『枕草子』の現代語訳を担当。近著に『都と京』『女流安房列車』『男尊女子』『忘れる女、忘れられる女』『ガラスの50代』『バブル・コンプレックス』『処女の道程』など多数。
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