「痩せたい!」その一心で、好きでもない運動をがんばって続けている方には残念な報せだが、代謝の最新科学によれば、「1日の総消費カロリーは、運動をしても増えない」という。つまり、運動しても痩せられはしないのだ。
そう主張するのは、米デューク大学人類進化学准教授のハーマン・ポンツァーさんだ。著書『運動しても痩せないのはなぜか 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」』(草思社)では、ダイエット論争と人類進化の謎に、常識を覆す答えを提示している。
ポンツァーさんは、人間のエネルギー代謝学と進化に関する研究者。タンザニアのサバンナの真ん中で野営生活を送りながら狩猟採集民ハッザ族を調査し、ウガンダの熱帯雨林ではチンパンジーの生態を子細に観察した。さらには世界中の動物園や保護区で類人猿の代謝測定に成功。こうした画期的な研究が注目を集め、ニューヨークタイムズ紙をはじめ、BBCやワシントンポスト紙など数々のメディアに取り上げられている。
本書の中でポンツァーさんは、これまで、「運動すれば痩せる」と考えられてきたのは、「エネルギー消費に関する知識体系が根本的に間違っている点にある」と指摘する。どういうことか?
たとえば、私たちはエネルギー代謝について、自分たちの体を機械になぞらえ、おおよそこんな風に理解している。
● ヒトは食べ物という形で燃料(エネルギー)をとり込む。
● 運動によってエンジンを回転させ、燃料を燃やす。
● 燃やされなかった燃料は脂肪として蓄積する。
● エンジンの回転数が高い人は、毎日より多くの燃料を燃やすので太ることはない。
● 不要な脂肪を溜めこんでいる人は、もっと運動をして燃やさなくてはならない。
しかしポンツァーさんは、「ヒトの体は燃料として食料を必要としている」「使われなかった燃料は脂肪として蓄えられる」の2点以外は「でたらめだ」と断言する。
「人体は燃料を燃やして動く単純な機械とは違う。それは人体が工学に基づいてつくられた製品ではなく、進化の産物だからだ。」 (本文より)
ポンツァーさんは、500万年にわたる進化の過程で、ヒトの代謝エンジンは「驚くほどダイナミックで適応力の高いものになった」と言う。野生動物に襲われる危険を冒してでも消費カロリーを上回るカロリーを手に入れることができなければ飢えが待っていた時代から、自宅で座っていても消費カロリーを大幅に上回るカロリーを摂取できる時代へ。ヒトの代謝エンジンは、生存と繁殖に有利になるようその変化に適応してきた。代謝速度が上がり、多くの脂肪を蓄えるよう進化したのである。そして私たちの体は、運動や食事によって減量しようとしても、その努力の成果が出にくい仕組みになっている。研究によってこれらの事実を突き止めたポンツァーさんは、「運動したら1日に燃えるエネルギー量が増え、エネルギーをたくさん燃やしたら脂肪がつかない」という考え方を否定している。
「なあんだ、アホらしい。もう運動なんてや~めた」と思うのはまだ早い。運動しても1日の消費カロリーは増えない。しかし、いや、だからこそ現代人には運動が必要だとポンツァーさんは言う。なぜなら、余ったカロリーは、本来は必要のないところで「炎症」を引き起こすからだ。詳しいメカニズムの解説は本書に譲るが、炎症はアレルギーや関節炎、動脈疾患のほか、さまざまな病気の原因となる。運動をすることでこれらの炎症が抑えられ、健康が維持されるという。
本書ではほかにも、エネルギー消費、運動、食事について、「進化」という観点から検討し、これまでの通説を覆す衝撃的な事実を次々と明らかにしている。「痩せないけど運動はしなくちゃならない」とは酷な話だが、人体の不思議や進化の謎をひもといていけば、現代人にとっての「理想の体」へ近づくヒントが得られるのではないだろうか。
■ハーマン・ポンツァーさんプロフィール
デューク大学人類進化学准教授、デューク・グローバルヘルス研究所グローバルヘルス准教授。人間のエネルギー代謝学と進化に関する研究者として国際的に知られている。タンザニアの狩猟採集民ハッザ族を対象としたフィールドワークや、ウガンダの熱帯雨林でのチンパンジーの生態に関するフィールドワークのほか、世界中の動物園や保護区での類人猿の代謝測定など、さまざまな環境において画期的な研究を行っている。
■訳者:小巻靖子さんプロフィール
こまき・やすこ/大阪外国語大学(現、大阪大学外国語学部)英語科卒業。訳書に『移民の世界史』『サブスクリプション・マーケティング』『ティム・ウォーカー写真集 SHOOT FOR THE MOON』など多数。
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