子どもたちはそれぞれ違ってみんな可愛い。
うちの子はうちの子のペースで成長すればいい。
そう思えるようになるまで、私たち夫婦はすごくすごく遠まわりしてしまったんだ――。
「ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~」(みなと鈴)は、自閉症の娘・ムーちゃんを育てる夫婦の姿を描いた育児マンガだ。
はじめての子ども・ムーちゃんに愛情を注ぎながら毎日を過ごしていた専業主婦の彩。ところが、ムーちゃんは1歳半になってもバイバイどころかパパママすら言えない。「難聴とか――?」。もう見知らぬ人に「こんにちは」も言えるようになっているよその子を見て、彩は不安を募らせていた。
むかえた診断の日。発達専門の医師は、ムーちゃんを、自閉症らしき特徴が見られる「そういうタイプの子」だと告げる。
「あの子はね......ことばは非常に遅れます。多動傾向も学校に入ってからもずっと続きます。当然、勉強にも影響します。あの子は、そういうタイプの子。」
ショックを受ける彩の頭に、「潜在能力が低いわけじゃない」「人とはものの受け止め方が違う」だけだという医師の説明は入ってこない。自閉症の子は、普通とは違うらしい、勉強にも影響が出るらしい、治らないらしい――。マイナスの情報だけが頭をかけめぐる。
その晩。家に帰って、夫の充洋(みつひろ)にこのことを伝える彩。ところが、充洋は診断を認めようとしない。それどころか、自分の娘を自閉症だと診断した医者に怒りはじめる。
「病院なんかいく必要ない! ムーちゃんは普通だよ。ちょっと成長が遅いだけでどう見たって普通だろ! 医者だかなんだか知らねーけど、ちょっと見たくらいでなんでそんなに先のことまでわかるんだよ!」
充洋の態度に呆れる彩だが、彩自身も診断を真正面からは受け止めていない。きっと私の語りかけが足りないだけだ、ちょっと他の子より成長が遅いだけだ――。そうして、「自閉症」という言葉を、いったんなかったことにしてしまう。
作者のみなと鈴さんは、実際に10年間専業主婦として自閉症の子どもを育てた経験の持ち主だ。そのためか、劇中の描写にはリアリティが満ちていて、説得力がある。本編の間には医療ライターによるコラムも載っていて、自閉症や知的障害に関する正しい知識を得ることもできる。
ただリアルで役に立つだけではない。彩と充洋は、この後もかなりキツい失敗やすれ違いを経験するが、読んでいる時に不快感は覚えない。逆に、二人を応援したい気持ちが湧いてくる。それは、それぞれのキャラクターに、単なる「夫」「妻」を越えた魅力があるからだ。
充洋はキザなところが愛らしい男前だし、第2話から登場する彩の母にも憎めない良さがある。読む人に元気を与えてくれる子育て物語だ。
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