2012年6月6日に薨去された、寬仁親王殿下。ざっくばらんな人柄で「ひげの殿下」の愛称で親しまれ、皇室と一般国民との架け橋として活躍された。薨去から10年となる2022年6月、殿下が生前書き残した貴重なエッセイが、『ひげの殿下日記~The Diary of the Bearded Prince~』(小学館)として出版された。
本書は、寬仁親王殿下が会長を務めた障がい者福祉団体「柏朋会」の会報誌「ザ・トド」(1980~2011年発刊)に掲載されたエッセイ「とどのおしゃべり」を再構成して書籍化したもの。すべて殿下ご自身の手による文章だ。
本書を監修した寬仁親王殿下の第一女子・彬子女王殿下は、「本書には、自分に正直に、皇族として、ひとりの人間として、66年の生涯を生き抜かれた寬仁親王のありのままの思いが詰まっている」とつづっている。本書には、社会福祉のことはもちろん、友人、宮家職員、娘たちの成長日記、スキーとスポーツ、そしてガンとの闘病のことがありのままに記されている。人間・寬仁親王殿下を知ることができる、貴重な一冊だ。
本書の内容を一部ご紹介しよう。
〈「とどの由来」1980. 10. 19〉
副将としていばり返っていた頃、偶然どこかの動物園からトドが逃げ出して隅田川に入り、上流に遡ってしまったことがある。トドというのは人畜有害であり危険な動物であるから、自衛隊の狙撃班が出動して何発も撃ち込んだあげくに、やっとトドメをさす事ができた。このニュースを読んだ同級生部員が、『自意識過剰でケンカっ早く、何にでも反抗して救い様のないミカサは、人畜有害のあのトドと同じだ!』といい出したのが私のあだ名の由来である。
〈「人間を大切にする心」2001. 09. 30〉
「趣味は何か?」と問われれば、文句なく「人間」と答えますし、「貴方の財産は何ですか?」と聞かれたら、間違いなく、「私の財産は、国内外に無数に居る友達」と答えます。
〈「柏朋会とは?」1980. 08. 17〉
柏朋会は、昭和五十四年四月、身障友の会応援団が名称変更して、発足したものである。会のモットーは、障害のある者もない者も、共にボランティアをすることによって、社会に役立つべく、能力開発をしていこうというものである。我が国の福祉は永い間恵まれている者から、そうでない者に対する一方通行の行為が多かった。例えば、行政体から身障者へ、お金持ちから貧乏な人へ、健常者から障害者へという風に......。別の云い方をすれば健常者による同情心やほどこしの気分をベースにした行為があり、極論すれば差別になってしまう。
〈「近況雑感」2011. 12. 20〉
まずお詫びを!本来九月三十日発行予定の第111号が、私の十四回目の癌手術・入院の為延期せざるを得なくなり、本年の最終号を迎えてしまいました。編集長として誠に遺憾に思います。初めての事とて、平に御容赦願い上げます。二十年間に十四回というのは、いかにも確率が悪いと思いますが、本人としては罹患する以前から、我が一族は癌に罹り易いDNAを持っていると判っていましたので、皆様が思われる程驚いてはいません。
〈「ヴァイブレーター(人工喉頭)」2009. 03. 31〉
「音声」を残すか、「食」を残すかについては、随分悩みました。前述のごとく一昨年から判っていた事ですから、時間を掛けて真剣に考えていた訳ですが、結局の所、「音声」を残しても、「食」が栄養剤のみになって、フラフラ状態で入退院を繰り返す等という状態になるよりは、身体は丈夫で、「音声」が無いという方が私にとっては良いと思うに至りました。
編集者いわく、もとは周辺取材を重ねて一冊にする計画だったが、資料として彬子女王殿下から「とどのおしゃべり」を受け取って読み、「これはこのまま出版するしかない」と決意したそう。飾り気のない言葉でつづられた全608ページの文章から、国民に愛された「ひげの殿下」の人柄に思いを馳せてほしい。
■寬仁親王殿下(ともひとしんのうでんか)
1946年1月5日、大正天皇第四皇子である三笠宮崇仁親王の第一男子として誕生。1968年、学習院大学法学部政治学科卒業後、英国オックスフォード大学モードリン・コレッジに留学。帰国後、札幌オリンピック冬季大会組識委員会事務局、沖縄国際海洋博覧会世界海洋青少年大会事務局に勤務。「ひげの殿下」の愛称で国民に親しまれ、柏朋会やありのまま舎などの運営に関わり、障害者福祉や、スポーツ振興、青少年育成、国際親善など幅広い分野の活動に取り組まれた。著書に『トモさんのえげれす留学』(文藝春秋)、『皇族のひとりごと』(二見書房)、『雪は友だち──トモさんの身障者スキー教室』(光文社)、『今ベールを脱ぐ ジェントルマンの極意』(小学館)など。2012年薨去。
■彬子女王殿下(あきこじょおうでんか)
1981年12月20日、寬仁親王の第一女子として誕生。学習院大学を卒業後、オックスフォード大学マートン・コレッジに留学。日本美術史を専攻し、海外に流出した日本美術に関する調査・研究を行い、2010年に博士号を取得。女性皇族として博士号は史上初。現在、京都産業大学日本文化研究所特別教授、京都市立芸術大学客員教授他。子どもたちに日本文化を伝えるための「心游舎」を創設し、全国で活動中。『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP研究所)『京都ものがたりの道』(毎日新聞出版)『日本美のこころ』『日本美のこころ 最後の職人ものがたり』(ともに小学館)など著書多数。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?