「神の正体を、知っていますか。天国も地獄も、すべてここにある」――。
全世界累計200万部を突破した『世界から猫が消えたなら』をはじめ、『億男』『四月になれば彼女は』『百花』など、話題作を次々と発表してきた川村元気さん。
本書『神曲』(新潮社)は、「稀代のストーリーテラー」が放つ、2年半ぶり圧巻の最新長編。「神」「宗教」「信仰」がテーマになっている。
100人以上の宗教の信者や元信者の話を聞く、イスラエルなどいくつかの国を周るなど、取材に4、5年、執筆に1年ほどかけたそうだ。
小鳥店を営む檀野家の穏やかな日常は、突然終わりを告げた。小学生の息子が通り魔に殺されるという凄惨な事件によって――。「息子さんのために、歌わせてください」。悲しみに暮れる檀野家に、不思議な合唱隊がやってくる。訝しむ父をよそに、母と娘は歌うことで次第に心を取り戻していくが......。
本書は「第一篇 檀野三知男」「第二篇 檀野響子」「第三篇 檀野花音」の構成。とある神を胡散臭く思っている夫、とある神を信じ切っている妻、信心と不信のあいだで揺れる娘。この3人の視点から描かれる。
檀野家の息子・奏汰が犠牲になった通り魔事件の場面から始まる。
小学校の校門前で、男が両手にナイフを握りしめ、逃げ惑う子供たちを追いかける。安全帽が散乱し、血を流した子供たちが倒れる。男は血を滴らせたナイフを手に、歩きながら歌い続けていた。
「黒ずくめの男は血みどろの顔を天に向け、子供たちの復活を祈る呪文のように、何度も、何度も、同じ節をくり返す」
そこに突っ込んできたトラックが男を撥ね飛ばし、歌が止んだ。
事件当日、体調を崩した響子の代わりに、三知男が奏汰を小学校まで送った。横断歩道の手前で「お父さん、ここでいいよ!」と言い、奏汰はひとりで渡った。直後、男が走りこんできて奏汰を刺した。
事件の後から響子は寝込み、花音は中学校に行かなくなった。葬式が終わると、三知男は店を開け、小鳥の世話を始めた。
「目の前の仕事に没頭しない限り、すぐにあの日の血のにおいや、男が口ずさんだメロディが生々しく現れる」
響子は三知男を責め、呪詛の言葉をくり返した。日常を変わらず過ごしているように見えるのが、許せなかったのだ。
「あの時なにやってたの? ぼーっと信号の前で突っ立って。そんなに自分の命が惜しかった? あなたそれでも父親なの?」
家庭不和は続いていたが、ある日突然、響子が別人のように豹変した。合唱の練習に誘われ、花音と行ってくるという。三知男は呆気に取られたが、「音楽が、彼女を救ってくれるのかもしれない」と喜んだ。
しかし、「永遠の声」という合唱隊に、響子が多額の寄付をしていることが判明する。
何が行われているのか。何が響子をそこまで惹きつけるのか。知らなければ守ることはできないと思い、三知男は「永遠の声」を見学することにした。
ところが、いざ「永遠の声」に参加し、その麗しいハーモニーに耳を傾けていると、三知男の心境に変化が。
「たとえそれがまやかしだとしても、妻の側にいくべきなのだろうか。(中略)たとえこの世界が信じるに足りないことばかりだとしても、その美しさだけは確かなものだった。それを、手放したくないと思った」
なんと、三知男も「永遠の声」に......。ここで第一篇の幕が閉じる。この一家大丈夫かと心配なまま、背筋が完全に凍る第二篇、靄が晴れていく第三篇へと進む。
■川村元気さんコメント
この数年間、「目に見えないけれども、そこにあるもの」を、小説というかたちで描いてみたいとずっと願っていました。(中略)奇しくも正体不明のウィルスに世界が席巻され、インターネットに顔の見えない悪意が蔓延る時代となっていきました。書きながら苦しみ抜いて、最後に微かな光のようなものを感じながらペンを置きました。(中略)この不信の時代に「信じる」ことを描いた本作が、ひとりでも多くの読者に届き、微かな希望となることを願ってやみません。
「次々と明かされる家族の秘密。ラスト二〇ページの戦慄。そして驚くべき終曲(フィナーレ)」。川村さん自身、どうなるか分からず書いていったという結末とは――。
どんなきっかけであれ、どんなかたちであれ、目に見えないものを信じることは誰しも経験するところだろう。「信」「不信」というテーマは哲学的で、深い。1度に理解するのは難しいが、読み終えて、自分は何を信じるのかと、自分に引き寄せて考えてみたくなった。
■川村元気さんプロフィール
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」「君の名は。」などの映画を製作。2011年、優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年、初小説『世界から猫が消えたなら』を発表し、同作は21カ国で出版された。18年、初監督作品『どちらを』がカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門に出品される。21年、初の翻訳本『ぼく モグラ キツネ 馬』を刊行。他著に小説『億男』『四月になれば彼女は』『百花』、対話集『仕事。』『理系。』など。
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