あなたは納豆が好きだろうか? なかには、独特のにおいがどうにも苦手で、食べられない人もいるだろう。あのにおいがたまらなく食欲をそそる......という人は、素質アリかもしれない。何の素質か? "くさ~い食べもの"にハマる素質だ。
10代の知的好奇心を応援する「ちくまQブックス」シリーズから、とんでもない方向性の好奇心をくすぐる一冊が出た。『世界一くさい食べもの なぜ食べられないような食べものがあるのか?』(筑摩書房)だ。納豆なんてまだまだ序の口、世界には気絶するくらいくさい食べものだってある。
著者の、東京農業大学名誉教授の小泉武夫さんは、いわば「くさい食べものオタク」。くさい食べものを求めて世界中を飛び回る。世界一くさいスウェーデンの魚の缶詰「シュール・ストレミング」や、食べただけで気絶寸前になる韓国のエイの刺身「ホンオ・フェ」、独特のにおいをもつブルーチーズのなかでも最強のにおいを放つニュージーランドの「エピキュアー」など、パンチのありすぎる食べものたちを次々と食べていく。
なんでわざわざくさいものを食べるの? といぶかしむ人がほとんどだろう。しかし小泉さんの文章を読むとあら不思議、くさい食べものがだんだん美味しそうに思えてくるのだ。日本一くさい食べものとして有名な、魚の干物「くさや」を語った一節を紹介しよう。
くさやは私の大好物中の大好物で、くさやが手に入った日は枕にして寝たいほどの溺愛ぶりである。あの熟しきった妖艶なにおい、そして奥深い味わいには、一種の魔性が潜んでいて、私を容易にとりこにしてしまうのだ。いったいどのようなしくみで、あの絶妙なくさみが生まれるのか。まさに魅力的な女性と出会ったときのごとく、すべてを知りたくなる。
(本文より)
あれっ、ちょっと「くさや」を食べてみたいかも、「くさや」のすべてを知ってみたいかも......そんな気分にならないだろうか? 本当に愛するものに対しては、語る言葉が止まらないのが「オタク」のさが。小泉さんのくさいもの愛にのせられて、私たち読者もあれよあれよとくさい食べものワールドへ引きずり込まれていく。
小泉さんの饒舌は、くさいものが美味しい! だけにはとどまらない。くさい食べものが、なぜくさいのか? なぜくさいのに多くの人々に食べられているのか? その意義や必然性まで、科学的にきっちり解説してくれるのだ。
「どのくらいくさいか」は、測定することができる。においの強さを調べる機器(アラバスター)で測定すると、納豆は363Au(アラバスター単位)、くさやは1267Au、ホンオ・フェは6230Auで、「世界一くさい食べ物」と言われるシュール・ストレミングは、なんと10870Auだ。ぶっちぎりのこの値は、脱ぎたての靴下(179Au。誰のかは知らない)の60倍に相当する。
人が加工してくさくなる食べものは、そのにおいの正体のほとんどが発酵菌だ。小泉さんは発酵学の専門家でもある。食べものを発酵させると、長期間腐らせずに保存ができる。貴重な食べものを発酵させて食べつないできた、世界各地の人々の生活が、くさい食べものから見えてくる。
くさいものなんて食べられないし食べたくもない。そう思っていたあなたも、この本を読み終える頃には「ちょっとくさやを注文してみようかな......」なんていう気分になっているはず。あなたの知らないかぐわしい世界に、まずは鼻先をつっこんでみてはいかがだろうか。
■小泉武夫(こいずみ・たけお)さんプロフィール
1943年福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学名誉教授。農学博士。専門は食文化論、発酵学、醸造学。発酵食品ソムリエ講座・発酵の学校校長、特定非営利活動法人発酵文化推進機構理事長などを務める。『くさい食べもの大全』『くさいはうまい』など、膨大な数の著書がある。
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