「女性の身体にまつわるタブーよ、くたばれ!!! 不妊治療も、流産も、体型批判への反発も、ほとばしる推しへの愛も語り尽くす」――。
吉川トリコさんの初のエッセイ集『おんなのじかん』(新潮社)は、「世間の用意した言葉からはみ出す感情」を軽やかに饒舌に綴った1冊。
先輩作家から「あんたはおしゃべりな文体だからさあ」と言われたことがあるという吉川さん。パンチのきいた文章がとにかく面白い。こんなふうにも書けるのかと、その自由で大胆な筆致にハマる。
「女を縛りつける数々の呪いを、私自身がいかにすり抜けてきたか、またはすり抜けられなかったか(中略)ごく個人的な経験を綴ったエッセイではあるが、同じ時間を生きてきたあなたの郷愁とおしゃべり欲を刺激するような一冊になっていたらうれしい」
本書は、新潮社のWebマガジン「考える人」(2019年9月18日~2021年3月17日配信)の連載に書下ろしを加えた30編を収録。
■目次(抜粋)
不妊治療するつもりじゃなかった
家族という名のプレッシャー
「この人の子どもを産みたいと思った」
名古屋の嫁入り いま・むかし・なう
妊婦はそんなことを言っちゃいけません
流産あるあるすごく言いたい
ダイエット・ア・ラ・モード
ひとくちにピンクと申しましても
どこまでいっても夫婦は他人
特別になりたかった私たちへ ほか
「流産あるあるすごく言いたい」は、ネット上に掲載された報道記事・コラムなどのうち特に優れたものを表彰する「第1回PEPジャーナリズム大賞オピニオン部門」を受賞。
不妊治療中に偶然耳にした、隣の席の会話。"女の子の色"とされているピンクへの想い。前時代的な結婚式の作法に覚える違和感。ホモソ全開のお笑い番組で出会ったコント。アート無罪への疑問と矛盾。めそめそ泣いていたわけではない流産体験......。
ずっと誰かと話したかったんだよ、というテーマがてんこ盛り。読者はタイトルどおり、女同士で集まって延々とおしゃべりしているような、ディープな時間を過ごすこととなる。
吉川さんは26歳で子どもを産もうと思っていた。しかし44歳になった現在、出産はしていない。
以前、流産したことや不妊治療のことを書いたら、「私もです」「うちの子は養子なんだよ」と教えてくれる人が続々とあらわれたという。
「両手でだいじにだいじに掬い取るように、どの人もそっと手渡してくれた」。文筆業をしてきて、「あんなにも書いてよかったと思ったのははじめてだった」と振り返っている。
「知らないより知っているほうがやさしさに近づけるのであれば、私は知りたいと思うし、知ってほしいとも思う。そうやって少しずつでも距離をつめていこう」
吉川さんが不妊治療をはじめたのは38歳のとき。「いまやっとかないと後悔するかもだしな......」という消極的な気持ちからだった。
妊娠7週目で流産した。「どうして流産の話だけがこんなにも避けられ、隠されなければならないんだろう」と疑問を投げかけ、自身を「流産してもへらへらしている女」と書いている。
「流産した女はみな悲嘆に暮れ、めそめそ泣くばかり。わかりやすく記号的で、私の体験したものとは大きな隔たりがある。(中略)『こういう人間もいるんだよ』と言いたかった」
もう1つ、個人的にいたく共感した話を紹介したい。吉川さんはダイエットをはじめて、かれこれ20年近くになるという。
「思えば子どものころから、痩せていたことが一度もない。(中略)運動嫌いなのと食いしん坊なのと怠惰な性格があいまって、愛のままにわがままにすくすくと育ってしまった感がある」
年頃になり、「これ以上太ったらアウト」という男たちからの評価を「自分の価値」と思い込み、「落とし穴」にハマった。もしいま、あの頃の自分に声をかけるとしたら......。
「いいかい、よく聞きな。痩せるのも太るのも自分の好きにしろ。他人の声に惑わされるな。(中略)大事なのは自分がどうしたいのか、食べたいのか痩せたいのか、自分の欲望をきちんと見極めろ」
すがすがしいほどに、タブーや因習を突き破っていく。共感、痛快、発見の連続。だれかの物差しで物事を見るクセがついていたのだな、と気づかされる。心に刺激を与えてくれる名エッセイを、見逃さないでほしい。
■吉川トリコさんプロフィール
1977年生まれ。2004年「ねむりひめ」で女による女のためのR-18文学賞大賞・読者賞受賞。21年「流産あるあるすごく言いたい」で第1回PEPジャーナリズム大賞オピニオン部門受賞。著書に『しゃぼん』『グッモーエビアン!』『少女病』『ミドリのミ』『ずっと名古屋』『光の庭』『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)『ベルサイユのゆり―マリー・アントワネットの花籠―』『女優の娘』『夢で逢えたら』『余命一年、男をかう』などがある。
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