本書『女優の娘』(ポプラ社)は、アイドルグループ「YO! YO! ファーム」の一期生、斉藤いとに届いた、突然の母親の訃報から始まる。現役アイドルの母親が伝説のポルノ女優・赤井霧子だったという記事が週刊誌に出ると、ワイドショーは母娘のことでもちきりになる。
母親のことを隠してオーディションを受け、デビューしたのでクビを覚悟するが、事務所の社長は意外な提案をする。かつて赤井霧子主演の映画を何本も撮り、今や日本映画界を代表するヒットメーカーの小向井祐介による赤井霧子の追悼ドキュメンタリーへ出演することだった。
未婚の母として彼女を出産した霧子。その相手として小向井の名前も挙がっていた。「私が見張っとかないと、クソださい映画になりそうだから」とナビゲーターを引き受けた彼女は、小向井とともに霧子の関係者を訪ね歩く。
作中では「ヌーベルポルノ」となっているが、一世を風靡した日活「ロマンポルノ」を模しているのは明らかである。ポルノ女優と言われながら、堂々としていた女優の姿を思い浮かべながら読み進んだ。
取材と撮影のかたわら、現役アイドルである彼女の日常がインサートされる。ファームの場内にはいたるところにカメラが設置されていて、「日常」は切り貼りされ、毎週インターネットテレビの番組で放送されている。ファームの来場者の投票でメンバーは順位を競い合っている。このあたりは現実のアイドルグループのシステムからの借用だろう。一期生で最年長24歳のいとはずっと20位前後を行き来している。ランキングはあまり気にしていないが、同僚からは「自分のこと地味とかブスとか言ってさ、予防線張ってるのかけん制のつもりかなんなのか知らないけど――知りたくもないけど、逃げてるだけじゃん、そんなの。うちらと同じ土俵に上がるのがこわいだけじゃん」と非難されたこともある。
「わたしはみんなとちがう。みんながキャンディなら私は胡桃。それを自分でわかっていた」 「母親の死を知らされて、涙のひとつも流れてこない。私のほかにそんな子は、ここにはいない」
母親の二番目の夫の家を飛び出して以来、二人が一緒に住むことはなかった。一方的に電話がかかってきて、「ママはママ以外のだれかになってしゃべり続けた。過去に演じた役のこともあったし、ぜんぜん知らない女の名前を名乗ることもあった」。
二番目の夫の家を監督と訪れ、やりとりするうちにいとは発作を起こす。そのシーンを撮る小向井に彼女は笑いかける。アイドルはいつの間にか女優に変身していた。
ドキュメンタリー映画の撮影という設定の小説なので、このまま映画化できるだろう。映画とネット映像、女優とアイドルの対比の中に、母娘の葛藤を描きだすという著者、吉川トリコさんの狙いはほぼ達成されている。
吉川さんは2004年、「ねむりひめ」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞・読者賞を受賞。映画化された『グッモーエビアン!』のほか『ずっと名古屋』など、在住する名古屋を舞台にした小説と『マリー・アントワネットの日記』シリーズで知られる。
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