Amazon予約開始直後にビジネス・経済部門で1位、500ページのボリュームでありながら発売前に増刷が決定し、既に累計3万部を超える発行部数となった注目作が『進化思考』(太刀川英輔 著、海士の風)だ。
著者の太刀川英輔さんは、プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・建築・空間デザイン・発明の領域を越境するデザイナー。グッドデザイン賞金賞(日本)やアジアデザイン賞大賞(香港)など100以上の国際賞を受賞。デザイン教育にも携わるなど多方面で活躍中だ。
そんな太刀川さんは、「進化思考」を提唱して6年、本作の執筆に3年を費やしている。
「進化思考」について、太刀川さんは「生物の進化と同じく「変異と適応」を繰り返すことで、誰もが創造性を諦めることなく発揮できるようになる思考法」だという。
優れた創造は、一部の天才的な人からしか生み出せないものではないそうだ。
生物が突然変異で異変種を作り出し、その種が環境適応していくと進化につながる。適応できなければ、その種は淘汰される。創造は、進化と同じく変異と適応の繰り返しによって生まれるというのだ。
そして、本作を読み進めると、創造性は暗黙知ではなく学べるものであることが理解できるようになる。
本作には、多数の引用文献や事例が登場する。その中から一つ、発明王エジソンの例を紹介したい。この例は、適応の本質に触れている。
エジソンが21歳の時に作った最初の発明は「電子投票記録機」だったという。高給取りの政治家の時間短縮を図り、政治をもっと前進させる狙いがあった。しかし、その発明は全く相手にされなかった(適応できなかった)そうだ。機能的に優れた発明でも、投票時の政党間の関係や導入に関係する利害状況の理解不足がその要因だと本作では分析している。
この事例で太刀川さんは、適応には現状を率直に理解する力が必須だという。現に存在するルールがなぜ必要なのか、本質的な理由を探求するのが適応の思考だというのだ。
この例は本作の一部に過ぎないが、このような具体的な事例や図を交えて綴られているので、分量の割にはつまずきにくい構成になっている。
本書の刊行に際し、著者の太刀川さんは次のようにコメントしている。
人間も自然の一部だから、創造性も自然現象なはずです。そうして僕は創造性とよく似た生物の進化という現象にのめり込みました。そこにははっきりと、創造性の本質が詰まっていました。
生物の進化は、変異的なエラーと、様々な状況への適応の繰り返しで起こります。 進化はバカと秀才を繰り返していると言っても良いでしょう。お笑いで言えばボケとツッコミの繰り返しにも似ています。実は、誰でも優れた創造性を発揮できるパターンが存在するのです。
この気づきは、長い時間を生き残ってきたイノベーションやデザインのコンセプトを、 あるいは人間に宿る創造性の本性をくっきりと浮き彫りにしてくれました。
このコメントのポイントは、この本を読んだ後に「誰でも優れた創造性を発揮できるパターンが存在する」ということ。これを念頭に置いて読むと、理解が変わってくるのではないだろうか。
本作は、「第30回 山本七平賞」の最終候補作でもある。
同賞の選考委員は、伊藤元重(学習院大学教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、長谷川眞理子(総合研究大学院大学学長)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。最終選考会は9月7日(火)に行われる。そこで本作がどのように評されるのか注目していきたい。
版元の出版社「海士の風」は、隠岐諸島に誕生した新しい出版社。そして、立ち上げ1作目が本書『進化思考』だ。第1作にふさわしい丁寧な装丁、紙の選び方ひとつとっても、かなりの検討が繰り返されたに違いない本に仕上がっている。
太刀川さんは、大手出版社の誘いを辞退し、本作を「海士の風」に依頼したという。離島からこの本が出ることに希望を感じたのが理由で、それが何かは本作の文中に委ねたい。
実は、本書の最後には、太刀川さんから読者へのお願いが記されている。500ページの読書の旅の後にその願いを読むと、そこからまた新たな旅が始まるのだ。
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