日本は魚食文化のイメージがあり、世界一の漁獲量を誇ると思われる方も多いかもしれない。しかし、現在は肉食が魚食を上回り、漁獲量も日本が世界一を誇っていたのは1980年代前半までのことだという。町の魚屋さんが廃業する様子も見られるなど、苦戦が続く鮮魚ビジネス。そんな業界の中で、赤字体質の水産会社を4年で黒字化させた奮闘記が本書『魚屋は真夜中に刺身を引き始める』(織茂信尋 著、ダイヤモンド社)だ。
本書は、タイトルが印象的だ。何も足さず、何も引かずのストレートなタイトル。なぜ真夜中に刺身を引くのか。気になって手に取ると、働き者の魚屋さんの苦労話というよりは、イノベーションのヒントが満載の内容。業界の枠を超えて参考になる話題も多い。
本書の著者は東信水産株式会社代表取締役社長の織茂信尋(おりも・のぶつね)さん。東京工科大学バイオニクス学部(現応用生物学部)で有機化学を学び、同大学院修了。大学院ではコエンザイムQ10なども研究していた研究者だ。本書の記述に、法規制の名称や発効日、参考文献名などがしっかり書かれていてリファレンスしやすいのは、研究論文と長年向き合ってきた研究者ならではの気遣いだろう。同業者の方は規制の根拠にたどり着きやすい構成だ。
織茂さんは大学院修了後、総合商社勤務を経て、2010年に東信水産株式会社へ入社。営業企画部(現商品企画部)を経て、2017年1月から現職。
本書には、生活の中で身近な魚を例に、なぜ、食として人気が出たのかを解説するページもあって親しみやすい。
特に、海外からのアプローチで成功しているサーモンの話は、魚だけに目から鱗。
今ではお寿司でも人気のサーモン。しかし、以前の日本は、鮭はお寿司で食べておらず、その点をノルウェーの養殖企業は不思議に思ったそうだ。まさに、そこにビジネスのヒントが隠されていた。
しかし、着眼点は鋭かったが、すぐにはうまくいかなかったようで、ノルウェーの養殖企業は「養殖のため、寄生虫がゼロ」にもかかわらず、生食で売れない状況に陥り苦戦する。そこで、ノルウェー政府や同業者も巻き込んだ「プロジェクトジャパン」を立ち上げ、「問題は品質ではない、イメージなのだ」と気づいたそうだ。
そして、「サケ」ではなく「ノルウェーサーモン」でマーケティングを行う作戦が功を奏し、今のサーモン人気を導き出しているという。
身近なサーモンの話であるがゆえ、多くの業界にも通じるビジネスの正解探しの困難さがとてもよく伝わってくる。
魚はシーフードとして海外で注目を集め、健康に良いヘルシーな食材として人気が出ているそうだ。健康に良いとなれば、言わずもがな納得がいく。ゆえに織茂さんは日本でもまだまだビジネスチャンスがあるという。
本書の冒頭には、コンビニで売られている刺身の「うまみと弾力の豊かさ」を知ったらどうなるか、コンビニの刺身のイメージが一新されると書かれている。
流通技術は整っているから、あとは魚屋さんが「絶妙なタイミング」で「パッキングされた刺身」を小売店に向けて出荷できるかがカギとなり、なぜ真夜中に刺身を引くのかという理由もそこに隠されているのだ。
そして、読み進めると「パッキングされた刺身」の持つ意味の大きさにも気づく。
本書は、魚を食卓に届けるために、織茂さんが鮮魚業界で挑戦してきたイノベーションの数々が具体的に書かれている。研究肌で客観的な分析も含まれつつも、堅苦しさなく読めるので、多くのビジネスパーソンにとって参考になる一冊だろう。
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