その少年は、"逃げる"ことで英雄になった。
『暗殺教室』『魔人探偵脳噛ネウロ』などの作品で知られる漫画家・松井優征さんの新作『逃げ上手の若君』の単行本第1巻が7月2日、発売された。松井さんの新作は約5年ぶり。
『逃げ上手の若君』の主人公は、鎌倉幕府最後の最高権力者・北条高時の遺児にして、天下で最も"逃げ上手"な少年・北条時行(ほうじょうときゆき)。1335年に起きた「中先代の乱」の首謀者として日本史に登場するほか、何度敗北しても生き延びて再起する稀有な武将としても知られる。
第一話冒頭では、時行が幼い頃から過ごした鎌倉の街が一瞬にして喪失。父高時、兄邦時をはじめ、親類縁者はほぼ亡くなる。「父...上...」。のちに室町幕府を開く足利高氏の謀反によって鎌倉が攻め落とされ、時行は故郷も家族も全て失ったのだった。
父の亡骸を前に、時行は茫然と立ち尽くす。が、そこに突然、信濃国(現在の長野県)の神官・諏訪頼重(すわよりしげ)が登場。
「これより貴方様を我が領地信濃諏訪(しなのすわ)にてお匿いしまする」
「高氏は殺す事で英雄となり、貴方様は生きる事で英雄となる」
はじめは父とともに腹を切ろうとした時行だったが、頼重に説得され、逃げ延びて再起することを決意。味方を集め、鎌倉を奪還することを誓う。
「貴方のせいで生きる悦びにときめいてしまった。頼重殿、責任は取ってもらうぞ」
あらすじだけ見ると重い歴史モノの作品のようだが、もちろんそうではない。松井さんらしい豊かな筆致で時行の活躍が描かれ、コメディ要素も挟みながらコントのようにテンポよく話が進んでいく。
とくに松井さんらしさが表れているのが、諏訪頼重の設定。「なぜなら私...本物の『神様』でございますから」と話すなど、本物の神官ではあるものの胡散臭さ全開。有能だけれどどこか怪しげなキャラクター設定は、『暗殺教室』の殺せんせーを思い起こさせる。
主人公・時行のキャラ造形にも、松井さんらしさが滲み出ている。松井さんは年少の少年少女を描くのが非常に上手い。本作の時行も非常に生き生きとしており、敵方の弓の腕前に興味津々になるなど、少年らしい好奇心をたびたび発揮する。
時行と頼重は、これからどんな運命を辿るのか。それが決して良い未来ではないことは、歴史の教科書を見ればわかる。しかし本作の2人ならば、そんな運命を吹き飛ばしてくれそうな気もしてしまう。
単行本第2巻は8月4日に発売予定。2人の運命から、目が離せない。
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