大ヒットしたドラマ「半沢直樹」と大森南朋さんが家政夫を演じた「私の家政夫ナギサさん」は、どちらも同じ「日本の病理」を象徴している――?
ドラマには、制作国の世相が反映されると言われる。ジェンダーをテーマにドラマの魅力や問題点を読み解く治部れんげさんの連載が、書籍化された。
本書『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』(光文社)は、光文社noteで先行公開中の人気連載を書籍化したもの。治部れんげさんは、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授で、ジェンダー問題の識者としてジャーナリストとしても活躍している。
本書では、韓国(「愛の不時着」「SKYキャッスル」他)、アメリカ(「ハンドメイズ・テイル」「ザ・グッド・ファイト」他)、欧州とカナダ(「アウトブレイク」「アンという名の少女」他)、そして日本(「半沢直樹」「きのう何食べた?」他)のドラマの魅力とヒットの理由、そして、ドラマに反映されている各国の社会の問題点をジェンダー視点でわかりやすく解説している。いずれも話題作ばかりだ。
たとえば、冒頭の「半沢直樹」と「私の家政夫ナギサさん」。治部さんは、いずれも日本の「男女の役割」や「働き方の常識」という問題点を浮き彫りにしている、と指摘する。
「半沢直樹」では、堺雅人さん演じる「企業戦士の夫」と、「可愛くて難しいことはわからない専業主婦の妻(上戸彩さん)」や「サラリーマンの愚痴を聞いてくれる優しい女将(井川遥さん)」といった男女のキャラクターの描かれ方が「古臭い」。また、男性俳優陣の「顔芸」が話題になる一方で、白井大臣(江口のりこさん)の能面のような無表情は、「男性と肩を並べて働く女性たちは、政治家でもビジネスパーソンでも、個人の感情を表に出せない」という悲しい現実を表しているという。
また、「ナギサさん」では、男性が家事をして女性を献身的に支えるという「新しさ」が働く女性に高評価を得たものの、主人公のメイ(多部未華子さん)が、家事をする時間が全くないほど仕事が忙しいことが「当然」ととらえられる風潮に「疑問を感じざるを得ない」としている。
そして治部さんは、「半沢直樹」と「ナギサさん」が象徴している日本社会の一番の問題は、「正社員=無制限に残業できるのが当たり前」という価値観だ、と指摘する。なるほど、そうした視点で観ていくと、「では海外ドラマはどうなのだろうか」と気になってくる。
治部さんは、次のようにコメントを寄せている。
この本は、ヒットしたドラマをジェンダーの視点で見てみよう、という試みです。「ジェンダー」の枠組みで見ると、多くのドラマを一層、面白く見ることができるうえ、考えることがたくさん出てきます。本書では国内外、22本のドラマを取り上げ、ストーリーや登場人物の設定、セリフなどを「社会的・文化的性差=ジェンダー」の観点から検討しています。現実のある側面を映し出すドラマ視聴を通じて、私たちを取り巻く社会を考え、他の国や文化との共通点や相違点を考える旅を、一緒に楽しんでいただければ幸いです。
本書にはほかに、人権意識の低い日本のテレビが苦手な人向けの「おススメドラマリスト」としても使える、最新のドラマ解説書にもなっている。
大人気ドラマをジェンダー視点で改めて考察してみると、これまでとは異なる楽しみ方ができそうだ。
■治部れんげさんプロフィール
1974年生まれ。1997年、一橋大学法学部卒。日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。メディア・経営・教育とジェンダーやダイバーシティについて執筆。現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員。東京大学大学院情報学環客員研究員。東京都男女平等参画審議会委員。豊島区男女共同参画推進会議会長。公益財団法人ジョイセフ理事。一般財団法人女性労働協会評議員。著書に『「男女格差後進国」の衝撃:無意識のジェンダーバイアスを克服する』(小学館)、『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)等。
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