新卒採用で1万7000人の応募が殺到することでも注目を集めた老舗「船橋屋」。
1805年から八代続く老舗の経営目的は「売上」や「成長」ではなく「幸せ」だという。そして、「幸せ」を経営目的に変えてから、「船橋屋」は10年で経常利益が6倍に成長しただけでなく、本業の営みの中からイノベーションも生まれている。
その興味深い変化の過程を船橋屋代表取締役八代目当主の渡辺雅司さんがまとめたのが『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』(PHP)だ。
なお、船橋屋の社名を聞いて、店頭に並ぶまで450日を要し、消費期限はたった2日の生菓子が何かわかった方も多いのではないだろうか(答え合わせは、記事の後段で)。
本書は、著者の渡辺さんが現場で学び、感じた言葉で綴られており、経験という裏付けも手伝って、登場する事例の説明がわかりやすい。
渡辺さんは大手の銀行勤務を経て、実家である「船橋屋」に入社している。はじめのうちは、銀行員時代に接してきた多くの経営者の振る舞いや、経営者は「こうあるべき」、「こうするべき」という考えの影響もあり、船橋屋を長年支えてきた職人との接し方などがスムーズにいかなかったそうだ。
しかし、渡辺さんは原点に立ち返り「「船橋屋」は何なのか」を考え、「くず餅」を通じ、関わるすべての人を幸せにする」ことに着目する。そこから人事戦略など、さまざまな施策が成功していくのである。
船橋屋は、200年もの長きにわたり、くず餅を生産してきた老舗。買っていただく方の幸せも大切にする姿勢から導かれたイノベーションの実例もある。
船橋屋に寄せられるお客様からの声に、とある共通点があったそうだ。それは、くず餅を食べていると体の調子がいいというもの。
そこで、船橋屋は専門家に調査を依頼。その結果、くず餅の原料発酵物から13種類もの乳酸菌が発見され、その中のひとつ「ラクトバチルスパラカゼイ」を「くず餅乳酸菌(R)」として抽出したのである。
その機能は本書に詳しいが、イノベーションを加速させるのに十分な効果があり、「くず餅乳酸菌(R)」を使用した新商品「くず餅乳酸菌(R)REBIRTH」(サプリメント)や「くず餅乳酸菌(R)入りのかき氷」などの開発が行われることになったのだ。
先祖代々受け継いだ樽の中にいた「くず餅乳酸菌(R)」。イノベーションは自社のリソースにあり、それを気づかせてくれるきっかけはお客様の声だったというエピソードだ。
マネジメントの参考として本書を読むと、渡辺さんの言う次の2点は、どんな業種でもあてはまる問いとして目を引いた。
①誰のために存在するのか
②なぜ存在しているのか
そして、本書でもう一つ、マネジメントの観点で印象に残ったのが「くず餅とは何か」という命題に向き合う渡辺さんの姿と、船橋屋が呼ぶ「刹那の幸福」という言葉。
くず餅は仕込みに450日(製品として店頭に並ぶまで450日)を要し、消費期限は2日間だそうだ。その刹那的な生菓子を200年間作ってきているのが船橋屋。和菓子では唯一無二の発酵食品でもあるそうだ。
保存料などを用いて消費期限を延ばすことはせず、200年続く製法を守り続ける商いが、「船橋屋」そのものなのだという。
誰のために、なぜ存在し、何を作ってきたのか。そこに向き合った渡辺さんの姿勢が本書の読みどころだろう。
渡辺さんは「はじめに」で、本書は経営のハウツー本でも組織論の教科書でもないと書いている。しかし、本書は、そもそも経営やマネジメントが何のためにあるのか、その「根本の大切さ」に気づかせてくれる一冊であることは間違いない。
前述のイノベーションの実例だけでなく、あるべきリーダー像からの脱却、幸せだから結果が出る、人材開発は場の力づくりから、社員の貢献欲求など、多くの経営者が興味を持つであろうテーマも多く収録されているので、関心のある方は手に取ってみてはいかがだろうか。
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