高校時代の特に親しくもなかった同級生の顔を、覚えていますか――?
ベストセラー『ものするひと』の作者、オカヤイヅミさんの最新作『白木蓮はきれいに散らない』は、「しんどい現実」を生きる50代の女性3人の等身大の姿を描いた野心作。『女性セブン』連載中から話題を呼んだ作品に大幅加筆して単行本化したものだ。
雅子さまと同じ1963年生まれのマリ、サヨ、サトエの3人は、高校の同窓生。同じクラスだったヒロミが、自らが所有する「白蓮荘」で孤独死したことをきっかけに、久しぶりに集まる。ヒロミとは特に仲が良かった記憶はないが、遺言書の宛名には3人の名前が書かれていた。
「ほんとうは料理も掃除も洗濯も好きじゃない」専業主婦のマリ。
「自分の身を守るなんてこの歳までしたことなかった」夫と離婚協定中のサヨ。
「お嫁に行って子供を産まなきゃだめですか」キャリアウーマンのサトエ。
三者三様の「しんどい現実」を抱え、変わらない関係と、変わりゆく状況の中で、それぞれの人生を見つめる。生きづらい世の中で自分の居場所を探し求める女たちの物語だ。
ヒロミの遺言書には、「庭に大きな白木蓮が植えられたアパート」と「そこに住む謎の店子の今後について」のお願いが書かれていた。
ヒロミはなぜ、この3人を呼んだのか。彼女たちの先には、何が待ち受けているのか。
ちょっとしたミステリー要素もありながら、脚色しすぎない等身大のセリフと独特なタッチの絵がじわじわと心の中に浸透し、登場人物と同じ空気感を共有しているような感覚になる。
3人がヒロミの思い出を掘り起こそうとする場面に「そんなもんだよね」と共感する。
「声が可愛かった 控えめで」
「そうだっけ 大学生の彼氏がいるらしいって噂じゃなかった?」
「そうそう なんかいつも本読んでなかった?」
「......ヒロミの顔、思いだせる?」
著者のオカヤイヅミさんは、1978年東京都生まれ。独自の感性で日常を切り取った『いろちがい』で2011年にデビュー。綿矢りささんや、西加奈子さん、桜庭一樹さん、朝井リョウさん、村田沙耶香さん、島田雅彦さんら人気作家15人に理想の「最後の晩餐」について訊ねたエッセイコミック『おあとがよろしいようで』(文藝春秋)が話題に。若き純文作家の日常を描いた『ものするひと』(KADOKAWA)は数々の書評で絶讃された。
本作は、オカヤさんのデビュー10周年の記念碑的な作品だ。どこにでもいそうな人々と、なんてことのない日常を照らす暖かいまなざしが、静かな感動を呼ぶ一作。
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