礼儀作法とは、社会人としてわきまえてしかるべきことを自然に振る舞うことであり、どうしても堅苦しいイメージがある。しかし、じつはそれだけではないという。
小笠原清基さんの本書『生き抜くための小笠原流礼法――心と体を強くする礼儀と作法』(方丈社)は、特にこれから社会に出ていく人が「想定外の環境を生きるための礼儀と作法」を学ぶのに最適の一冊。
「小笠原流礼法とは、人と人との間をスムーズにするもの、無駄な敵をつくらず、自分らしくのびのびと生きていくためのもの。自分を守るための術、と言ってもいいでしょう」
小笠原さんも門人たちも、コロナ禍においても以前と何ら変わりなく、日々を淡々と過ごしているという。
「その理由はおそらく、私たちが常日頃、礼法を身につけるべく稽古に励んでいるからでしょう」
そこで、今、小笠原流礼法を学ぶメリットを書いている。
礼法は、いずれの技も「なぜ、こうするのか」という裏付けの理論を大切にしている。この「なぜ、こうするのか」を考える習慣ができると、臨機応変に動けるようになるという。
また、小笠原家は、鎌倉時代より代々の将軍の指南役を務めてきたことから、「将軍たるもの、いかにあるべきか」という思想が礼法のベースにある。
将軍には、常に冷静であることと適切な判断が求められる。礼法の一つひとつは、ごく当たり前のことばかり。当たり前のことをいつも同じようにできるよう稽古を重ねることで、動じない精神力が鍛えられるという。
さらに、いずれも日常生活の単純な動作でありながら、正しく行おうとすれば全身の筋肉が鍛えられ、太りにくくやせやすい体をつくることができるという。
「未だ先の見えないこの世の中を生き抜くためには、自分で考える力、何があっても動じることなく臨機応変に動ける心、そして健やかで強い体を手に入れる必要があるでしょう」
本書は「体の芯をつくる」「心の芯をつくる」「体を強くする」「心を強くする」の四章構成。
「生き抜くための作法」として、立つ、座る、座る―立つ、椅子の腰かけ方・立ち方、歩く、膝行・膝退、廻り方・開き方・曲がり方、立礼、座礼、行き逢いの礼・前通りの礼、訪問の心得、物を持つ、ドアの開け方・閉め方、引き戸の開け方・閉め方、呼吸、食事の心得という動作をイラスト付きで解説している。
ここでは、小笠原流礼法の基本中の基本であり、すべての動作の始まりとなる基本姿勢「立つ」を紹介しよう。「立ち姿は、その人の第一印象を決めるもの」というから、ぜひ覚えておきたい。
「小笠原流礼法が目指すのは、一見して平らかな心情が伝わるような、気高い姿。リラックスしていながらも、堂々としている自然体が、相手に対して失礼でなく、なおかつ相手から下に見られることがない立ち姿ということになります」
立つときに、ここまで考えている人はそうそういないだろう。ただ、反り腰や猫背になると、内臓の位置が狂ったり、脳のはたらきが低下したりするというから要注意。
イラストを見たほうが断然わかりやすいが、「立ちかたの基本」は「背すじは、身長をはかるイメージで、まっすぐ伸ばす」「重心は、頭の重さが土踏まずに落ちるようなイメージ」「手は力を入れずに自然におろす。指を揃え、手のひらをややくぼませ、軽く太ももに置く」などとある。
最後に、小笠原家の伝書『修身論』に記載されている言葉 "一事万事万事一事"を紹介しよう。
「一つのことをしっかりと出来るようになるとそれは万事に通じ、そして万事もまた一事に通じるということを意味しています」
小笠原流礼法は、850年以上にわたり一子相伝で伝承されてきたという。由緒ある「心の芯と体の芯をつくる振る舞い」を学ぶことは、今を生き抜く力になりそうだ。
■小笠原清基さんプロフィール
弓馬術礼法小笠原流次期宗家。1980年、31世宗家小笠原清忠の長男として東京に生まれる。3歳より稽古を始め、5歳より小笠原流の諸行事に関わる。小学5年生で鶴岡八幡宮の流鏑馬神事において射手を務める。大阪大学基礎工学部卒業後、筑波大学大学院で神経科学博士を取得。「家業を生業としない」という家訓から、現在は製薬会社で癌の治療薬の研究を行う。週末などを利用し、流鏑馬をはじめとした流儀の継承に努めている。
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