先週発売の「週刊文春」(2021年2月11日号)は、菅首相の長男による総務省高級幹部への"違法接待"疑惑と有名女子アナの夫の不倫疑惑という2本柱のスクープで他誌を圧倒した。いま、日本で最も恐れられる雑誌とされ、いわゆる「文春砲」は相変わらず絶好調であることを印象づけた。ネット・文春オンラインのPVもうなぎ登りに増えている。いまや総合週刊誌で「一人勝ち」状態の「週刊文春」。本書「2016年の週刊文春」(光文社)は、花田紀凱と新谷学という、二人の名編集長を軸に昭和、平成、令和の週刊誌とスクープの現場を描く痛快無比のノンフィクションだ。
著者の柳澤健さんは、1960年生まれ。空調機メーカーを経て文藝春秋に入社。「週刊文春」「Number」編集部に在籍。2003年に独立。著書に『1976年のアントニオ猪木』『1985年のクラッシュ・ギャルズ』など。
文春の内部にいた強みを生かして、花田、新谷両氏をはじめ、数多くの文春関係者の証言から、いかに現在の「文春砲」がつくられていったかを活写している。
本書の構成は以下の通り。
序 章 編集長への処分
第一章 会えば元気になる男
第二章 週刊誌記者
第三章 疑惑の銃弾
第四章 花田週刊
第五章 マルコポーロ事件
第六章 殺しの軍団
第七章 二〇一六年の『週刊文春』
最終章 文春オンライン
あとがきにかえて――二〇二〇年の『週刊文春』
序章は新谷氏が、2012年に「週刊文春」編集長に就任以来、「小沢一郎 妻からの『離縁状』」、「巨人原監督が元暴力団員に一億円払っていた!」「全聾の作曲家 佐村河内守はペテン師だった!」などのスクープを連発しながら、15年10月、浮世絵の春画をカラーグラビアで掲載し、しかも局部をトリミングして拡大したことから社内で問題になり、3か月の休業を社長から申し渡されたところから始まる。そして、花田氏に電話を入れる。
ここから花田氏の週刊誌記者としての来し方に触れながら、文藝春秋という出版社の特異な社風、週刊誌のつくり方、取材と執筆について、昭和と平成の事件史を概観する。
そして、「週刊文春」の最強時代を築いた「新谷」時代のエピソードを豊富に紹介している。
通して読んで、思ったことが二つある。一つは文藝春秋と言えば、「自由闊達」な社風で知られるが、意外と派閥抗争があり、トップの意向で雑誌の改廃とそれに伴う人事異動が多いこと。またトップの思い付きで創刊した雑誌があれもこれも失敗に終わり、ほとんどが廃刊(業界では休刊というが)されていること。
この点はあまり異動がなく、文芸なら文芸一筋という編集者が多い、ライバル新潮社とは対照的だ。
もう一つは、「殺しの軍団」と恐れられた新谷氏率いる取材チームの辣腕ぶり。氏の人脈の凄さには驚くばかりだ。しかも、スキャンダルがあれば、知人であれ平気で書くという豪胆さ。議員辞職に追い込まれた政治家もいる。
最終章「文春オンライン」が今風だ。デジタル化に取り組み、マネタイズに成功した舞台裏を書いている。紙の週刊誌の部数は「週刊文春」と言えども、減少傾向に歯止めが利かない。いかにして生き残るか、切実な問題だ。
「週刊文春」が無ければ良かったのに、と恨んでいる当事者も多いだろう。今や新聞やテレビ発信のスクープが少なくなり、硬軟織り交ぜてスクープを放つメディアは、「週刊文春」ぐらいだ。ずっと頑張ってほしい、と切に願った。
実際、タイトルになっている2016年から17年にかけて、「週刊文春」が評者の仕事のペースメーカーになった時期があった。木曜発売だが、水曜夕方には都内のJR線車内に「週刊文春」の中刷り広告がぶらさがる。それを見て文春オンラインをチェックしないと、翌日の仕事に差し障りがあったのだ。毎週毎週、よく続くものだ、と感心した。
新谷氏は現在、編集局長として指揮している。「殺しの軍団」は健在だ。
BOOKウォッチでは、直木賞作家・白石一文さんがかつて在籍した文藝春秋をモデルに書いた小説『君がいないと小説は書けない』(新潮社)を紹介済みだ。
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