緊急事態宣言が出されて小学校が休校になったばかりのころ、「この際、学校では教わらないことを」と一緒に弁当作りをした。しかし、危なっかしくてつい手が出てしまう。最初は張り切っていた息子も、母親が隣で口うるさく指図するものだから、興味を失ったらしい。「料理を通して、できることを増やそう」という目論見は、見事に外れた。
子どもと料理をする時、どのくらいの距離感で寄り添えばいいのか、どのタイミングで何をすれば子どものできることが増えるのか、そんな疑問に答えてくれるのが、鹿児島県霧島市にあるひより保育園のレシピ集『「ひより食堂へようこそ」小学校にあがるまでに身に付けたいお料理の基本』(そらのまち出版)だ。
2019年9月に発売され、大きな反響を得ているこのレシピ本がいま、休校中の子どもたちのために、無料で公開されている。
2017年の開園以来、食育活動を大切にしているひより保育園では、園児たちは、0歳の頃から日常的に食材に触れ、1歳児は野菜の皮むき、2歳児以上は包丁を持って野菜を切り、卒園までには揚げ物や、魚をさばくこともできるようになるという。
本書『ひより食堂へようこそ』は、園外の人々にも料理の楽しさを知ってほしいと企画され、料理本のアカデミー賞と呼ばれるグルマン世界料理アワード2020(children部門)で、世界一を受賞した。
保育園の調理師や栄養士などがまとめた旬の食材のおいしい食べ方や選び方、園児にも保護者にも人気のメニューのレシピを掲載している。
園が食育で大切にしているのは、料理を始めから終わりまで行うこと。企画や調理、片付けなどを通して、人と協力すること、段取りをすること、小さな怪我から学ぶこと、人をもてなすこと、全体の動きを見て立ち居振舞うこと、譲り合うこと、自分の意見をうまく伝えることなど、さまざまな経験をする。
本書は、そうした思いや食育活動の具体的な進め方などの読み物と、レシピで構成されている。今回、無料で公開されるのは、全82ページのうちのレシピ部分。おにぎりや味噌汁をはじめ、甘い卵焼き、ポテトサラダなど子どもたちの大好きなメニュー、コロッケやかき揚げなどの揚げ物、魚のさばき方の詳しい説明もある焼き魚まで、大人にも役立つレシピ本だ。
味噌汁のページを見ると、材料は「必要なもの」「代用ができるもの」「あればよいもの」の3つに分類され、作り方は、だし汁を中火にかける→味噌を溶いて入れる→ひと煮立ち→味を調える、の4ステップ。具材によって火の通り方が違うため、入れるタイミングを「土から下の野菜」と「土から上の野菜」で変えるという説明も分かりやすい。
まずは1品からと、息子に味噌汁を作らせてみることに。ひより保育園のやり方にならって、具材を決めるところから本人に任せた。彼が選んだのは、豆腐とワカメと油揚げ、そして薬味のネギ。最初は「何をすればいいの?」というスタンスだった息子も、母親が何も言わないとわかると、自分なりに次のステップを考えている。
味見をして、「もう少しかなあ」と味噌を足したり、手を切らないよう慎重にネギを切ったりしている姿を見て、あれこれと口を出さずに見守ることが大切なのだと実感。完成した味噌汁は不思議といつもの味がした。
味噌汁を作り終えた息子は、「お箸とコップと、お皿はこれだね」とテーブルセッティングまでしてくれた。自主性を育むひより保育園の食育。並んでキッチンに立つことで、どんな教材にも劣らない「生きる力」を身に付けられそうだ。
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