バレリーナとして世界を舞台に活躍し、日本に広くバレエを根付かせた草刈民代さんと、著者の内田朋子さんの対談インタビュー。
第1回「「順序を踏まないと踊れない」バレエと知財の密接な関係」では、草刈さんが経験したバレエに関わる権利交渉について聞いた。第2回となる今回は「知財の権利を知ることで得られるもの」について語っていただいた。
内田 草刈さんは、コロナ禍で企画したYouTube動画「#Chainof8(チェインオブエイト)」(※草刈さんが、7名の表現者に協力を呼びかけ構想を練り音楽を選び自らも踊った動画企画)でも、知財に関わる権利交渉をしたそうですね。この企画は、何がきっかけで実現したのでしょうか?
草刈 自粛期間中、ニュースやワイドショーで毎日のようにスポーツ選手たちのエクササイズの紹介や、人気のあるスターのちょっとしたダンスなどが紹介されていましたが、その中に踊りの動画がないことに気づいたのです。
そこで、各界のトップダンサーたちを集めて「何か作ろうよ」と声をかけたのがきっかけです。
内田 東京バレエ団プリンシパルの上野水香さん、コンテンポラリーの中村恩恵さんや平原慎太郎さん、NY在住のタップダンサー熊谷和徳さん、CM、雑誌などでも活躍する菅原小春さん、日本人男性初の「シルク・ドゥ・ソレイユ」ダンサー・辻本知彦さん、舞踏家・麿赤児さんなど、短期間のうちにあれだけのダンサーたちを集めて一つのものを作る取り組み自体に、本当に驚きました。
音楽の使用に関しては、世界的作曲家のフィリップ・グラス氏から直接許諾を取ったということで、とてもびっくりしてしまいました。
草刈 実際のところ、YouTubeに投稿する程度のことであれば本人まで許諾を取る必要はなかったみたいなのですが、バレエ作品を作る際には作曲家の許諾が必要なので許諾を取りました。
それにYouTubeは全世界から視聴できるので、権利関係でひとたび問題になれば莫大なお金が発生する可能性もありますよね。
内田 第一線級で活躍するダンサーたちが集まる企画なら尚更、きちんとリスクヘッジをしておく必要がありますよね。いったい、どのようにして許諾を取られたのでしょうか?
草刈 フィリップ・グラスさん関連のSNSや記事を検索したら、日本人ピアニスト滑川真希さんに楽曲提供していることを知り、滑川さんにも直接メッセージを送らせていただきました。滑川さんは私のファンだと言ってくださり、快く協力してくれたのです。そのおかげでとても早く許諾をもらえました。このような形で新しい繋がりができたのも面白いと思っています。
内田 これまでの草刈さんのお話を聞いていると「知的財産」の権利についての知識を得ることで、想像力のスケールと人間関係の幅がどんどん広がっているように思います。
草刈 そうですね。また、私の場合は職業柄、相手の持っている権利について理解することは、人づき合いの上でも役立ちます。
その上で自分のやりたいことを明確にすれば、相手を尊重しながらクリアにするポイントを整理して交渉できるので、実行に繋げることができると思います。
内田 知的財産の権利を知ることは、相手の立場、人格と人権を尊重することにも繋がるのですね。
草刈 海外の場合は権利に対する主張が強いので、日本人の私は「こんなことまで主張するの?」ということも多いくらいなんです。そのくらい知的財産=クリエーターの人権と結びつけて考えられているものなんです。
内田 知財を巡る法律知識について細部まで詳しくなくても、「こういう決まりごとがあるんだ」ということを知っていれば、クリエーターの立場やその権利を想像したり、理解することができますね。
内田 最近は、YouTubeなどWeb上での活動も増えていますが、先日、オンラインサロン「Tami Time」がスタートしましたね。舞台、映画、ドラマで活躍されてきた草刈さんが、これからウェブとどのように付き合っていくのかが楽しみです。
草刈 不特定多数に向けたInstagramではできないことを目指したいと思っています。
今まで、Instagramの投稿が中心でしたが、イメージ的にはそれよりも踏み込んだ発信をしたいと思っています。私がその時に感じたことや考えていることを率直に書いたり発言したり。先日は初めてオンラインミーティングをしてみました。やり続けていく中で、どんどん出来ることを取り入れていきたいと思います。
内田 とてもワクワクします。通常のTwitterやInstagram活動より一歩踏み込んでいて、文化的で奥の深いウェブでの活躍が拝見できそうですね。
草刈民代
東京都生まれ。牧阿佐美バレエ団の主要バレリーナとして活躍、1987年全国舞踊コンクール第1部第1位、文部大臣奨励賞をはじめ、数多くの賞を受賞してきた。バレリーナとしては10年前に引退したが、国内外の公演でプロデューサーとして、アーティストとして活躍し続けている。96年の映画『Shall we ダンス?』(周防正行監督)の主演を機に、映画やドラマでも活躍。
内田朋子
東京都生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、共同通信社に入社。編集局写真企画部、写真データ部で撮影取材、データベース業務、デジタル戦略本部企画開発室委員としてデジタル事業に携わる。編集局ニュースセンター校閲部委員。日本新聞協会では著作権関連の委員会、研究会の委員を長年務めた。「知財とメディア」をテーマに、雑誌記事寄稿、ラジオ番組などのメディア出演、講演、セミナー、シンポジウム、トークショー、各大学講義のゲスト講師として登壇多数。京都芸術大学非常勤講師(情報リテラシー論)。著書に「すごいぞ! はたらく知財~14歳からの知的財産入門~」(晶文社)。
インタビューで草刈民代さんが語っていた企画「#Chainof8(チェインオブエイト)」は、『INFINITY』として
Bunkamuraオーチャードホールでの公演も決定している。ジャンルを超えたダンサーの競演を感じることができる催しだ。開催は2021年1月30日(土)。
詳しくは『INFINITY』の公式ページで確認できる。
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