著作権や特許権などの権利と知的財産(創造物)について、中学生レベルでわかりやすく書かれたのが、本書『すごいぞ! はたらく知財』(晶文社)だ。音楽、本、テレビ、映画、ゲームなど、暮らしの中にある知的財産(創造物)の作り手が、仕事の中身を説明。法律家らがそこにかかわる権利と法律を解説している。クリエーターをめざす子どもたちの良きガイドになるだろう。
監修者の弁護士・桑野雄一郎さんが、著作権や特許権、意匠権、商標権などについて簡単に説明した上で、以下の11のジャンルについて、作り手が登場し、4人の著者が分担して書いている。
1 文学 谷川俊太郎さん <大事な作品が勝手に変えられたら......?> 2 音楽 ユニバーサルミュージック <保護と利用の正しいバランスって?> 3 映画 東宝 <「ゴジラ」の世界観を守るには> 4 舞台 草刈民代さん <振付家の著作権とダンサーの権利> 5 テレビ TBSテレビ <どうして好きなドラマがDVD販売されないの?> 6 芸能 サンミュージックプロダクション <芸能界の仕事をめぐる権利> 7 キャラクター 熊本県庁・くまモングループ <商標登録で「くまモン」を守る> 8 アニメ サンライズ <日本のアニメ作品と二次利用> 9 ゲーム コナミデジタルエンタテインメント <「アイディアのかたまり」に特許権を> 10 伝統工芸 細尾 <世界が注目する「西陣織」ブランド> 11 アート 東京国立近代美術館 <著作権があると美術館は運営できない?>
たとえば、文学に登場した詩人の谷川俊太郎さんは、言葉の不自由さに挑戦するために詩を書いてきたという。「言葉を一つひとつ慎重に選び、3カ月もかけて悩みながら作り上げた作品が知らないところで勝手に変えられたら」、「非常に気持ちが悪い」という。
朗読会で朗読されることもある。谷川さんは、「作品がいったんテキスト化されれば、その先は朗読者の自由」と考えている。著作権が過剰に懸念されて、作品がまったく活用されなくなってしまうのもつまらない、と考えているからだ。
だだし、その著作権利用が相当な収益を生み出す場合には、収益は作者にも還元されるべきと考えている。
また、脚注は詩や物語などの著作物を公共の場所で朗読する場合、著作権者に無許諾で行えるケースと、許諾が必要なケースがあることにふれている。
コロナウイルスによる自粛生活が続いた頃、絵本を朗読する画像がSNSにあふれたが、問題を指摘する人もいた。仮に善意で行った行為でも著作権にふれるケースもあるので、注意が必要だ。
熊本県の人気キャラクターである「くまモン」の利用は基本的に無料だが、利用する企業は熊本県庁に申請して許諾を得なければならない。著作権と商標権で保護されているからだ。さらに詳しく著作者人格権と同一性保持権を説明し、勝手に「くまモン」のデザインが変えられないように管理していることを紹介している。
1年間で3000件くらいの商標利用の申請があり、2018年の関連商品の売上は1505億円で、熊本県における経済効果は非常に大きい。
また、海外における利用は別制度になっており、有料であること、中国企業による無許諾商品が多いことにもふれている。
中学生なら関心の高い音楽。作詞家・作曲家に発生する著作権、さらに音源となるマスターデータ(原盤)の製作者としての音楽会社は、無断で利用されない権利を持つ。著作隣接権の一つがレコード製作者の権利、「原盤権」である。
ユーチューブなどでさまざまな音楽や映像が無料で視聴できる時代になったからこそ、「音楽をふくむあらゆる創造物はけっして無料ではない」という関係者の言葉をもう一度確認したいものだ。
4人の執筆者の一人である、内田朋子さんは、共同通信でデジタル事業に携わった人。2016年4月の熊本地震の後、「復興にむけた『新たな創造』のきっかけとして、知財の知識を被災地の子どもたちに届けたい」という著者4人の願いから、本書は生まれたそうだ。
平易な語り口なので、中学生が将来の仕事を考える上での参考になるだろう。ぜひ学校の図書館に入れてほしい一冊だ。
BOOKウォッチでは、関連で『ビジュアルデザイン発注時に知っておきたい! 著作権のキホン トラブルを未然に防ぐ対策Q&A』(第一法規)、『その「つぶやき」は犯罪です』(新潮社) 、『撮ってはいけない』(自由国民社)などを紹介済みだ。
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