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埼玉県川口市、蕨市、八潮市の共通項は?

日本の異国

 本書『日本の異国――在日外国人の知られざる日常』(晶文社)の著者、室橋裕和さんはタイに約10年住んでいた。久しぶりに日本に戻ったら、ずいぶん外国人が増えていることに気づいた。そこで国内各地を歩き回り、調べた結果が本書となっている。

外国暮らしの体験

 室橋さんは、1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発日本語情報誌『Gダイアリー』『アジアの雑誌』デスクを務め、タイや周辺国を取材していた。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。おもな著書は『海外暮らし最強ナビ・アジア編』(辰巳出版)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書)など。

 バンコクは暮らしやすい街だったという。パスポートがあれば、その日から住み着くことができた。日本人も多く、日本食には事欠かない。周囲を見回すと、欧米人、韓国人や中国人、インドや中東の人も多かった。建設や飲食の現場ではミャンマー人やカンボジア人も目立った。タイ人は外国人に慣れており、日本人にとっても溶け込みやすい社会だったという。

 タイには日本人が多く住む地区があった。日本語が通じる病院もあるので、室橋さんも何かと世話になった。インド人も韓国人、ロシア人やドイツ人も、彼らのコミュニティをタイに作っていた。外国に住んでいると、母国の人たちとのつながりは貴重だ。そうしたネットワークがあるからこそ暮らせる、という一面があることを室橋さんは実感していた。

 本書はそのように、自身が「外国人」となって、異国で長期間暮らした筆者による、在日外国人社会のルポだ。自身の実体験に基づいて、日本社会に暮らす外国人を対象化しているというところが、貴重だ。

 三つに分ける

 本書は以下の構成。

 となりの異国――地域に根付いたコミュニティ
  1:竹ノ塚――魅惑の癒しスポット、リトル・マニラ
  2:埼玉県八潮市――ヤシオスタン
  3:代々木上原――東京ジャーミイ
  4:西葛西――「リトル・インディア」の父、インド
  5:高田馬場――難民たちがつくった「リトル・ヤンゴン」、ミャンマー
 まだまだ知らない、日本の「異国」
  6:池袋――誰も知らない独立のシンボル、バングラデシュ
  7:練馬――光が丘の春祭り、モンゴル
  8:神奈川県大和市――定住した難民たち、ベトナム・カンボジア・ラオス
  9:茗荷谷――寺院でいただく「ランガル」の味、インド・シーク教徒
  10:八王子・千葉県成田市――日本の暮しの「拠り所」、タイ寺院
 これからの「異国」と諸問題
  11:静岡県御殿場市――絶賛拡大中の新しいコミュニティ、中国
  12:埼玉県蕨市――難民たちが肩を寄せ合う、クルド
  13:埼玉県川口市――「多文化共生」の最前線
  14:新大久保――ここに「未来の日本」はあるか

 本書は「日本の中の異国」を三つのフェーズに分けている。外国人がすでに地域に根付いている地区、まだあまり知られていない地区、これからの異国や諸問題を抱える地区だ。BOOKウォッチではすでに関連で多数の書を取り上げているので、重なるところもあれば、以下のような初出もある。

 「竹ノ塚――魅惑の癒しスポット、リトル・マニラ」「埼玉県八潮市――ヤシオスタン」「代々木上原――東京ジャーミイ」「池袋――誰も知らない独立のシンボル、バングラデシュ」「練馬――光が丘の春祭り、モンゴル」「茗荷谷――寺院でいただく『ランガル』の味、インド・シーク教徒」「八王子・千葉県成田市――日本の暮しの『拠り所』、タイ寺院」「静岡県御殿場市――絶賛拡大中の新しいコミュニティ、中国」「埼玉県蕨市――難民たちが肩を寄せ合う、クルド」などなど。

 少し説明すると、「ヤシオスタン」は、パキスタン人の中古車業者が多い。「東京ジャーミイ」は日本最大のモスク。イスラム教徒300~400人が礼拝堂に集まる。池袋北口周辺はすでに中国人の街になりつつあるが、本書はバングラデシュとの接点も紹介している。御殿場には巨大アウトレットがあり、富士山観光で立ち寄る中国人観光客が上客。そこで働く中国人が多数この街に集まっているという。蕨市のクルド人は、珍しいので、報道されることも多い。

アジアの同胞に上から目線

 BOOKウォッチでは類書をいくつか紹介済みだ。『東京のディープなアジア人街』(彩図社)は主としてと都内の外国人が多い街の紹介だ。『芝園団地に住んでいます――住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』(明石書店)は埼玉県川口にある、居住者5000人の約半数が中国人という団地の報告。著者の新聞記者自身がその団地に住み、自治会の役員もしている。『〈超・多国籍学校〉は今日もにぎやか!――多文化共生って何だろう』(岩波ジュニア新書)は、本書で登場する神奈川県大和市に隣接する横浜市内の小学校の話。著者は2004年から18年3月まで国際教育担当として同小(統合前のいちょう小学校も含む)に勤務してきた人だ。『団地と移民』(株式会社KADOKAWA)は全国の団地に視野を広げている。『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)は、日本で急速に増えた中国人にスポットを当てている。

 本書は2019年5月刊なので、海外との往来がままならないコロナ禍の現在は多少事情が違っているところもあるかもしれない。ただし、大きな流れとして、日本に外国人が増える趨勢は続くに違いない。

 本書の紹介記事の中では、バングラデシュ人の言葉が気になった。「日本に来るバングラデシュ人の研究者たちは、学んだこと、得たことを生かせていない」のだという。日本のほとんどの会社で門前払い。「白人でない外国人」という一点で拒絶される。仕方なくアメリカに行って花開いた研究者が少なくないそうだ。

 室橋さんは、そんな話を聞いて、こう書いている。「いつまでもアジアの同胞に対して上から目線で、乱暴な扱いをする社会であるならば、この国の衰退はいっそう早まるだろう」。

 BOOKウォッチでは2019年12月掲載のBOOK回顧でも、「日本に『外国人』はすでに約400万人!」というテーマで関連本をまとめて紹介している。

  • 書名 日本の異国
  • サブタイトル在日外国人の知られざる日常
  • 監修・編集・著者名室橋裕和 著
  • 出版社名晶文社
  • 出版年月日2019年5月25日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・390ページ
  • ISBN9784794970916

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